蟷螂の檻
」のレビュー

蟷螂の檻

彩景でりこ

5巻の「あの顔」こそ全て!

ネタバレ
2025年2月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ はあ~、耽美と背徳の沼に嵌りました。作品の余韻冷めやらず長いレビュ―に。名作です!昭和初期の仄暗い情念が作品を貫いています。主人公の育郎と典彦との、互いを絡めとるような関係がねっとり重くインビです。高潔、気丈な育郎に透けて見える脆弱さや限界感が美しい。それを自分の手で汚したい全てを独占したい、典彦の激重の執着愛がエロすぎます(煙草の件はマジダメだろ)。しかし嘔吐とか失禁とか変態贈賄爺とか、汚物にまみれて尚美しく見えてしまうのは、典彦に毒されたのだろうか?気づけば底知れぬ闇に連れられます。ただふたりの関係だけではない、この作品を骨太にしているのは周囲の脇役たちです。異なる生き方が主人公を一層際立てます。妻のさち子は強く賢く真っ直ぐな女性(女性がモブ化しやすいBLには希少)で、地に足をつけた甲斐性ある人物となり、対極として存在感があります。幼児のような兄蘭蔵は生立や幼少期から闇を背負わされていますが純粋な弟愛に満ちた人物。でもその無垢な愛情は報われない因縁が。健一の闇も深い。愛されたいだけなのに典彦に散々利用され自分を見失い空回って全く哀れ。が、思いもよらずこの二人は最終的に幸せになれそうです!よかったねええ!新聞記者の飯田は、若い頃はたかりやもどきでしたが、大人になると一番読者目線に近い常識的な人物としての立ち位置に。育郎に「幸せ」になってほしいと願いますが、同時に育郎の幸せはそれじゃダメだということもわかっています。育郎と典彦は幸せになれたのか。これはもう、5巻の、あの、育郎の顔。1頁ぶち抜いたあの顔が正解です!見たことのない表情。やられました持ってかれた。彩景先生の演出力感服です。一般人の私から見ると、もうさ健一みたいに真当に償って太陽の下二人で生きてほしいよ。という気持ちがのぞくのですが、きっと違うんですよね。あの形が何よりふたりの望む幸せなんだろうな。人に理解されずとも至福なんだろうな。と最終的に説得されてしまうのは、ひとえにあの育郎の顔の威力なのです。
行きついた先は、あれはまるで育郎が幼いころ見た「蟷螂の檻」。ここへきてタイトルが再現!檻の近くでは子どもが無邪気に遊んでおり…。ああすごい作品でした!それぞれの「幸せ」に辿り着けた、ハピエンだった、と思ってよいでしょうか?飯田目線の私は、正直どこか未練が残るのですが…「艶屋敷」等の続刊でなんとかおさめています。
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