スメルズ ライク グリーン スピリット SIDE-B
」のレビュー

スメルズ ライク グリーン スピリット SIDE-B

永井三郎

混乱、衝動、無力、そして受容

ネタバレ
2025年2月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ ステレオタイプのキャラクターやホモフォビアの描写に「一昔前すぎるだろ!」と思わず突っ込みましたが、本当に一昔前(12年前)の作品で驚きました。バックラッシュに曝されながら進んではいるんだとも、男らしさ女らしさの他に多様性という箱が出現しただけで、本質的には変わってないとも思う2025年から、複雑な気持ちで読みました。
改めて、バラエティやお笑い番組での同性愛いじりの罪深さを思います。同性愛者をはじめ性的少数者は虐めていい属性なんだと、笑っていい存在なんだと社会に植え付けた罪はとても償いきれるものではありません。あの頃を思うと、なぜ地上波ゴールデンでBLができないとか、BL原作なのにBLを濁すBLドラマとは何事かとかで怒れるのも進んできた故なんだなと思います。(それとこれとは別の話)
ストーリーは、閉鎖的な地域社会も、幼稚ないじめも、子供を尊重するどころかその主体性を認めようともしない親も、全部最悪。姿をくらまして野放し状態の性暴力教師がもっと最悪。最悪の全部盛りで休み休みじゃないと読めませんでした。三島の気高さと、三島の母親と、夢野の成長だけが救いです。
鍵を預けてもう二度と開けないであろうパンドラの箱を抱え、自分を押し殺して生きていく桐野を思うと胸が締め付けられました。というか、パンドラの箱なんて悲しいこと言うなよ…大切な自分自身だよ…。
それもまた彼の選択だと尊重したい気持ちもありますが、自分を偽って生きていくことの苦しみを吐き出せる存在はいるのか、本当の自分を解放できる場はあるのか、心配でなりません。
桃源郷なんて目指さなくたって、どこでも、好きな場所で、望んだ場所で、自分らしく生きられるのが健全で公正な社会のはずなのに、社会(政府)に個人の性的指向や性自認に口を出す権利はないのに、たったそれだけのことすら実現に向かわない。悔しい。それでも上を向いて前に向かって進んでいくしかないのでしょう。その強さを三島が教えてくれました。
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