こたえてマイ・ドリフター
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こたえてマイ・ドリフター

大島かもめ

作者買いです

ネタバレ
2025年4月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 思慮深く聡明で、想像力豊かな少年だったリンチェ。欲しい物を欲しいと言えない、何かにつけて自分を抑えることでその場を凌ぐような子。親にすら異物扱いされ、どこにも居場所がなかった。
対照的にエリオットは思慮が浅く現実主義。優秀でもないのに周りを小馬鹿にしてるところがある。恵まれた家庭で愛されて育ったため、強引で我儘なところがあるが、それは長所でもあり、根拠の無い自信で、どこまでも自分を信じ貫く強さを持つ。
自分とエリオットは住む世界が違うのだと気付かされる度、彼を遠ざけようとするリンチェ。憎しみではなく、エリオットとの思い出を糧に生きてきたから、それを美しいまま守り抜くことが彼にとっての生命線になっているように見えました。欲しいものに手を伸ばさず、想像して満足する方を選んできたのは自己防衛本能なのかな。願いに真っ直ぐ突き進むエリオットに対し、リンチェがちぐはぐな行動をとっているうちに、事態は最悪な状況に陥ります。
しかし、別れを告げるリンチェからの手紙で、彼がどんな気持ちで生きてきたかの一端に触れ、エリオットの覚悟が決まります。リンチェが出所するまでの5年間の描写はありませんが、彼を守るのだという幼い頃から変わらない想いを貫き通し、がむしゃらに生きてきたのは想像に難くありません。
ラスト、喜びを瞳に称えながら愛おし気にエリオットを見つめるリンチェと、得意げな顔で見つめ返すエリオット。この横顔、まぎれもなく大人の顔なんですが、子供時代の顔にも見えるんです!そういう表情が全体を通して何度もあって、鳥肌が立ちまくって、風邪ひいたかと思った!どんなにその手が汚れても、子供の頃のままの純粋で穢れない魂を、2人の表情に見る事ができます。このシーンまでくると涙が溢れて、また初めから読み返したくなり、毎回無限ループに陥ります。
辛酸をなめ尽くした2人ですが、今までの全てがあったからこそのこのラストだと思うので、全て必然だったのだと思いました。明日にでも終わりを告げそうな2人の生活ですが、1秒でも長く共に居られることを願ってやみません。彼らの幸せなその後が読めたら嬉しいです。
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