このレビューはネタバレを含みます▼
榎田先生の作品はいくつか読んだことがあって、キャラとか会話とか、濡れ場は魅力的なことが多いのだけれど、それ以外の全体的なストーリーには微妙にはまりきれないことが多々あった。本作品はその逆で、BL的に言うとあまり萌えず(でも終盤の、ついにがまんしきれなくなった主人公の描写はよかった)、キャラにもさほど魅力は感じなかったけれど(序盤主人公が、心の中で女に毒をはいてるのはおもしろかったが)、30才も過ぎた人物の目で見た高校生の世界の描写がとても生々しくてすばらしかった。
この作品を読んでると、窮屈で、不自由で、無力なのに力がありあまってて、なんとなくイライラしてて、自分に都合のよい時だけ変に潔癖なんていう、痛い十代の自分が思い出されてしまって、なんだか恥ずかしかった。
私が中高生だった頃、先生というのは学校に付録でついてきてるような存在で、先生を生身の人間としては見ていなかった。主人公が教師のことをあまり覚えていない感覚は、非常に共感できる。
両親は「立派であるべき大人」であり、毎晩呑んだくれて帰宅する父がうとましかった。でもあの頃の父って実は全然若かったし、いろいろ大変だったのかなと、今は思える。自分も働くようになり、年を重ねてから振り返ると、周囲の大人を表面的にしか見ていなかったことに気付く。広いと思っていた学校のグラウンドが、大人になって行ってみると意外と狭くて驚いてしまったあの感覚を、この作品を読んで思い出した。
郷愁と後悔と恥ずかしさ。ほんと過去の世界の描写がすばらしい。
タイムリープのお話としてはいまいち設定に納得いかない部分もあるし、「あなたに出会って救われた」的な展開が自分の好みとは少し違ってやや物足りなくはあるのだけれど、とにかくこの「大人の心で追体験する高校生の世界」の描写がほんとにおもしろいのでそこだけでも読む価値のある作品だと思う。