紙の舟で眠る【単行本版】
」のレビュー

紙の舟で眠る【単行本版】

八田てき

文学作品でも読んだかのよう

ネタバレ
2025年4月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 出だしからオカルト要素が含まれ耽美的かつ退廃的でもあり、戦後の混沌と復興の狭間、この雰囲気のままどういうお話が展開するのだろう?という興味と共に没入。
自分は初めての作家さんですが上巻248P、下巻226Pというボリュームで、まるで文学作品でも読んだかのような内容でした。
この方も凄い作家さんですね。最近は作風・作画共に感心するような技量の作家さんは多いですがこの方もまた然りで、花が散る様を表している箇所があって、そんな風に表現するのか・・・と、日本語表現にも感嘆。
作中の景色もそこに寄せられる表現もまた美しく、これはコミックなのかな?マンガってどんなだったっけ?としばし困惑(笑)。
戦後復興の誰もが生きることに必死だった時代、自分の仕事に対してひたむきさや志を持って就いていたひと昔前の日本人の良さも垣間見られノスタルジーを感じます。
途中どうしようもなく泣けてしょうがなかったのは上巻の最後の方で憬に打ち明けた燿一の本音の部分。
誰に対してもそんな風に思わせてはいけないのに憬が心中を伝えなかったばかりに、結果追い詰め・・・燿一の痛いほどの想いに、その不憫さに泣けて泣けてしょうがなかったです。
下巻は更にサスペンスタッチが加わり頭脳戦へ。自分としては好きな展開だったのであっという間に読み終えました。
憬の両親の身勝手さには、幼子を抱えてよくそんな決断ができるな!と腹が立ったものの憬が憎んでも恨んでもおらず両親への想いを手放せたことは救いで・・・読んでいるこちらは内心腹が立っているんですが想いを手放した部分の描かれ方もまた綺麗なものだから溜飲が下がるというか・・・ 丸め込まれた感じがしないでもない(笑)。
それぞれの苦悩と愛が詰まっていて胸が締め付けられる部分もありましたが、読み応えがあり読後感も良かったです。
次は”心して”もう1つの作品も読んでみようと思います。
いいねしたユーザ1人
レビューをシェアしよう!