薫りの継承【上下巻セット・単行本未収録イラスト付】
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薫りの継承【上下巻セット・単行本未収録イラスト付】

中村明日美子

抑圧の果てに

ネタバレ
2025年5月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ リブレ半額クーポンにて迷わず購入。
上下巻セットなのでノンストップでどっぷりと作品に浸ることができました。CMを挟まずに2時間映画を観たような脱力感…

資産家の家に生まれた長男の忍が、後妻の連れ子である竹蔵を強烈なまでに嫌い、遠ざけ、蔑まなければならなかったその複雑な背景……暇さえあればポテチ片手にBLを読み漁っているわたしのような庶民には到底理解することのできない、独特な闇の垣間見えるお話。
反目しているように見えつつも惹かれ合う義理の兄弟…2人の内情にいち早く気づいたのは、早熟な忍の息子でした。
察しのいい彼のアシストで義兄弟セック スにこぎつけるという意表をついた異常展開にどひゃーとなりましたが、その先はそんなものでは済まなかった…家族の定義は崩壊するわ倫理観は吹き飛ぶわの、エロエロインモラル描写のオンパレード(好物です)。
そんな隠したいんだか露わにしたいんだかわからない2人の秘密を知ってしまった忍の妻・茉莉子の、原型を留めない豹変ぶりときたら…大変素晴らしゅうございました。真っ向から関係性を問い詰めるでもなく、まっとうに殴り込むでもなく…じめじめと竹蔵に匂わせたり拾い集めた証拠を夫に突きつけた際の、おかしなまでに歪んだあの笑顔……先生、言外の意図を表現する天才すぎるやろ。
ちなみにこの作品にほぼモブキャラはいません。登場人物全員がやがてかっちりとパズルのように噛み合ってくる。
周りを巻き込む形でしか想いを遂げられなかった2人の結末は、幸不幸どちらとも断定し難いすっきりできないものとなりましたが、エリートの道を突き進んできた抑圧の権化のような忍が、真に愛する弟に抱かれ本音をしたためることができた開放感を思えば(残された竹蔵の心痛ぶりはともかくとして)……
そこまで悲観する必要もないのかな、と、思いたい。

それにしても、息子の要くんが見事なまでに継承してしまったね…何を以て『薫りの継承』なのか?読みはじめは全く想像ができなかったけれども、全体を通じてしっかりとタイトルが回収されています。
物語のキーアイテムとなる、薔薇のあしらわれたオー・ド・トワレ。香りの持続する3〜4時間、目隠しをしているその間だけは本当の自分たちでいられる…そんなメッセージのように思えてならないのです。
いや素晴らしかった。
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