このレビューはネタバレを含みます▼
渡辺が葉月に近づいた理由を葉月が知ってしまったあたりから、もう切なくてずっとノドがぎゅーってなりながら読んでました。繊細で拗らせてる葉月が真相を知ったら、さらに殻に閉じこもってしまうんじゃないかとハラハラしてたけど、実際はずっと強くて優しい子だった。「俺はこのみじめさから逃げたりしない」は痺れました…。渡辺は逃げまくってきたもんね。一見攻めが主導権握ってるようで、実は受けの方が精神的に強いってイイよね…。
そこから、好きという気持ちが変わったわけでもなく、渡辺の気持ちが届いていないわけでもなくて、意地を張ってるとかでもないんだけど、一度壊れてしまったものが少しずつ時間をかけて修復されていくさま…その時間と共にふたりが、それぞれに色んな想いを飲み込んで消化して強くなっていくようにも感じられて、描き方が見事だし美しいと思いました。気持ちがあってもどうしようもないとき、今はどうしてもそれじゃないときってあるよなぁ。上手く言えないけど…。こういうなんとも言えない感じを表現できるってほんとにすごいと思います。そして「世界は俺たちのためにある」でラストを飾るのも最高。これを渡辺が言うのもいい!この作家さんの作品どれも面白かったですが、このお話が一番好きです。
ほかにも、葉月を飲みに誘ってくれた課長とか、ゲイバーの面々との関わりとかも良いんだよなぁー。当人だけじゃなくて、周りの人のちょっとした優しさとかもあって、日々少しずつ救われて前向きになる感じ。こういう細かいエピソードをちゃんと入れるところもすごいなと思った。