蛍火艶夜
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蛍火艶夜

amase

命は、そこにあるだけで美しい

ネタバレ
2025年6月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ ホラーもゾンビも大丈夫ですが、戦争だけは不条理と未練のお話しすぎて好きではないです。読むと怖くなるとか涙が出るとかより鬱っぽくなってしまうんです。
たまたまこの作品の試し読みをしてしまう機会に鉢合わせ、購入しました。橋内和中尉編の切り抜きの一コマが大変綺麗だったことと、八木正蔵の顔が好みすぎた為、私の弱いところが露呈した瞬間だと思います。勝手に先を想像していい考えができないより、彼らの結末を見届けて、良い記憶として消化したい。私なりに作品鬱へ向き合おうとしました。

橋内和中尉編は掲載の三作品の中で同じ死に向かう話でありながらそれを感じさせない、柔らかな話でした。やっぱり橋内和という人間がメインだからか、抜群の才覚と人望を持っていながら、いざというときの“生”への執着が特段薄い感じがして。きっと比較として八木中尉が出てくるからだと思いますが、言い渡された瞬間に「遺しておきたくないもの」があるかないかって大きいですね。当初は、それでも八木中尉と同じコミュニティにいた志津摩はいつか八木と同じ道を辿れることになるからと思えていたけど、塚本×橋内は選出される側と、警備兵という関係が死んでも死にきれないんじゃないかと気がかりでした。ですが私にも感じられたあの爽快感は、橋内中尉に「思い残すことがもうない」、塚本がそれを取除ききったってわかったからなんだと思います。敢えて、沢山逢えた二人じゃないからこそ橋内にとっての塚本が特別な恋しさを抱くことなく、「間に合った」感じに救われました。

気弱で懸命な隠れテクニシャンの警備兵(攻)×ウブな美人系ハイスペムチムチ垂れ目上官(受)に対比して、嫌われ者だけど脆い中身を待ち合わせた八木中尉の話はより人間味溢れる構成で、綺麗だけじゃない愛憎が響きました。
外部に敵のいなかった橋内ですが、八木はきっと生涯を勘違いされたままで終わるのだろうなという感じがします。それでも「兵隊さんへ送ってしまおうか」男色を蔑まれ、失われて初めて気づくような人のもとではなく、志津摩の一つの命が“八木正蔵”という希望と未来の先にあってよかったです。

個人的には美人で優しくて才があって、それなのに誘い方をクソデカボイスで必死に訴えかけることしかできない橋内中尉に「男の子」の部分と、彼の言葉選びにいじらし〜ところを感じられるので大好きです!
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