葬思相愛
」のレビュー

葬思相愛

日尾ねり

哀悼の権利

ネタバレ
2025年7月1日
このレビューはネタバレを含みます▼ 黒羽葬儀社に勤める白鳥太陽と、その会社の跡取りであり、幼馴染であり、恋人でもある黒羽史人。二人が葬儀を通して故人に寄り添い、その最期を見届けていく物語です。

心温まる別れの描写がある一方で、誰にも打ち明けられない関係を抱えたまま生きることの苦しさ、そして二人が築いてきた愛を、確かなものとして遺すことができるのかという不安。その問いが、読む側にも突きつけられます。大切な人を悼む時間や儀式が、ただ〈故人に同性のパートナーがいる〉というだけで、政治的な意味を帯び、闘いの場になってしまう――そんな社会の歪みに、強い憤りを覚えました。

異性愛が当然とされる社会。結婚や子供を望まれること、ゲイではない太陽への負い目…。そうした思いに苦しむ史人に対して、太陽はその全てを包み込むように、前向きに、真っ直ぐに、自分たちの関係を肯定していく。その大きな愛に胸が熱くなりました。

孫の誕生が期待されるような家族関係の中で、いずれ大きな壁にぶつかるかもしれない。けれど、太陽と史人のような、大切な人との大切な関係が、誰からも疑問視されない日が来て欲しいと、心から思いました。だからこそ、婚姻の平等が一日も早く実現されて欲しい。太陽と史人、どちらが先かわかりませんが、いつか「社会に認められた関係」として、喪主挨拶をする姿を見届けられたらと思います。

それから、最後のチラシに救われました。亮平さんと夢見た未来は、亮平さんが守ってくれた。一人は寂しいかもしれないけど、幸せに生きていって欲しいです。

それにしても、「社会的に認められていない関係」なんて言われるけど、犯罪や搾取でもなく、ただ同性同士というだけで、結局は「社会が認めたくない」だけなんですよね。改めて、その理不尽さを噛み締めながら読みました。
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