夏を焼きつけて
」のレビュー

夏を焼きつけて

金田力金男

天岩戸が開いたら

ネタバレ
2025年7月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ 最愛の母と生まれるはずだった弟を同時に失い、「約束」という檻の中で時を止めてしまった高校生の三島くん。母親と交わした何気ない約束を守るため、2人の眠る仏壇を離れず暮らすことが彼なりの供養となっていた。
そうして青春のほとんどを仏壇に捧げる彼を諭そうとする者は誰もおらず、父親ですら三島の好きにさせているところに円満だった家族の風景を感じつつ…それゆえ約束にこだわる三島の悲しみを思うと、ひどく胸がえぐられる。
そんな三島をつかず離れず見守っていた幼馴染の沼津は、受験を控えた最後の夏、一歩踏み込んで三島を盆祭りに誘うことに。普段ならにべもなく断る三島だが、父の差し出すお下がりの浴衣に、なぜか母親の面影が重なって___
お盆がもたらした幻のような時間。心の扉を開いた先に待っていたのは…?

こういった話を読むたびにいつも思う。たとえ自分が先立っても、家族の不自由を望まない自信があると…
部外者であるわたしでさえそうなのだから、愛情深くまっすぐに育った三島のそのお母さんが仏壇に縫い付けられている息子の生きざまを喜んでいるとはとても思えない。それでも多感な時期、現実を直視するには自分と向き合う時間が必要だったのだろうと、おそらく三島以外の誰もが気づいていたから誰も彼を岩戸から引っ張り出さなかったのだと思うと…
あなたはこんなに大事にされているよ、大丈夫だよ、と、つい野暮なことを言いたくなる。

たった38ページ、されど38ページ…
短いけれど心にずっしりと残る夏にふさわしい作品でした。
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