オリバーの心臓【シーモア限定版】
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オリバーの心臓【シーモア限定版】

丸田ザール

知ることが救いとなる物語

ネタバレ
2025年8月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ 壮大で重厚なファンタジーBLでした。ただの恋愛物語ではありません。愛と支配、無知と知識──それらが交差する、読者に深く問いかける作品です。

※以下ネタバレを含みます。

敵国の王を討った英雄バンドレンが、戦場で出会ったのは王に寵愛されていた青年オリバー。愛する人を喪い、王の亡骸に縋り泣く彼を見たバンドレンは、なぜか心を奪われ、連れ帰ります。

オリバーは初め、抵抗し、泣き叫び、現実を拒み続けます。けれど、バンドレンは一言、問いを投げかけます。
お前の国はなぜ何も起こらなかったのかと。
平和な国の裏にあったのは「間引き」という犠牲のシステム。オリバーは、王がそんな残酷なことをしていたなんて信じられるはずがありません。

しかしバンドレンは言います。
「学べオリバー 知識がお前の武器となる 武器を磨くのだ」
ここからオリバーは変わり始めます。王の気高さを証明するために、学び、知ることを選ぶのです。これは彼にとって"反抗"であり"愛"であり、そして"成長"でもありました。

やがて、バンドレンの体を拭う場面で、彼の背中に奴隷の紋が刻まれていることを知ります。バンドレンはかつて奴隷だった。そこから将軍にまでのぼりつめた男を、オリバーの王はなぜ"脅威"として恐れていたのか──この理由をオリバーはやっと理解します。

この物語が何より素晴らしいのは"知ること"が救いになるように描かれているところです。無知がゆえに愛されたオリバーが、学ぶことで世界を知る。その変化がとても尊く、胸に迫ります。

過去の回想で描かれる王との穏やかな日々は、美しく、否定しきれないほどに甘やかです。だからこそオリバーの葛藤は深く、読者の心にも突き刺さります。

愛することと、理解すること。知らずにいる幸せと、知ることで得られる自由。そのどちらも肯定したうえで、バンドレンはただ一言「学べ」と語る。
その言葉の重みが、この物語をより豊かにしています。

知識をつけたオリバーがこの先、どのように成長し生きていくのか。オリバーの目にバンドレンはどのように映るのか。今後の展開に期待せざるを得ない作品です。
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