愛から一番遠い場所
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愛から一番遠い場所

せきとう

良作、ここにあります

ネタバレ
2025年8月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読んでいて、果てのない精神の海に溺れそうになりました。
いやすんごいすき……雰囲気ある絵柄も演出も何もかも好みだけれど、わかるようでわからない愛を問うような、深いテーマに1番心惹かれました。
既刊も全部集めようと思います。

αの世継(せつ)とΩの人紀(とき)。
Ωは弱者とされる世界線。人紀を中心に、『愛』サイドに位置する職場の先輩・元さんと人紀のおばあちゃん、『執着』サイドに位置する世継とで関わり方がぱっかり分かれる構図なのかと思いきや…運命の番を主張するα花村の登場により、すっかりその見立てがシャッフルされちゃいました。
本人の同意を得ることなく人紀を囲い込む世継のやり方には窒息しそうになりますが、バース性ありきで人紀との接触をはかる花村とは違い、世継は人紀という個人にΩが付随しただけ(ラッキー!)だと思っている可能性もあり、たとえ人紀がβでもαでも、結局ヤツは人紀を縛り囲っていただろうな、と考えると…
あれ??なにが愛でなにが執着なんだろう??と途端に迷子になってしまうのですが、それでも花村が正規の人権ルートで人紀にアプローチをかけているのに対し、世継のやっていることは明らかに同意なき支配なので、まーお話がこじれるこじれる。愛とは意思の尊重や自由であることに対し、執着はそれを奪う持続性のないものだから。
世継もαとしての資質だけを搾取され育ってきた手前、まともな距離の詰め方を知らないだけだったのではないか…と同情しそうになりますが、それをどう受け止めるかは人紀に委ねられている感じです。
愛と、愛らしきもの=執着では行き着く先が真逆であることをはっきりと識別している作者さまが、自分の才能をフルに生かして自由に描いた作品のようにも思えました。最後まで低空で低温な感じは、ものすごく隠キャの肌に合う。

時折差し込まれる猫やカラスなどの動物、風に舞う木々や咲き誇るひまわり。なにか影響や予兆を示唆するようでいてただただ自然に巡る生命の営みと、ラベルに振り回され勝手に不自由になる人間たちとの何とも言えない対比が素晴らしかった。

冒頭の蝉の鳴き声からして、もう…2人の魂の叫びが湿気と共に感じられるかのようでした。
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