このレビューはネタバレを含みます▼
美麗な絵柄に引き寄せられ、『2055』『2072』、『2075』上下巻を大人買い。
タイトル(時系列)順にじっくり拝読したはいいものの、このシリーズの始まりである弥凪(やなぎ)とアオイの短くも切ない物語、『2055』の序盤からずっと涙が止まりませんで…シクシク痛む胸を押さえながら、ティッシュを相棒になんとか最後まで読み切りました。
いや素晴らしかった。
短いお話だと舐めてはいけません…テーマもシンプルだしそれほど詰め込みすぎている感じもないのに、しっかり筋を通し完結しています。いつか一冊にまとまるのでしょうか?願わくば、2100、2150とこのままずっと続いてほしいけれども…
オリジンと呼ばれる人間と、人間の意識データが搭載されたオールドAIと、AIが作ったニューオーダーAIの共存する世界。しかし一部の人間は反旗を翻し、AIでいうところの非合理的な手段をとり自分たちの尊厳を守っていた。
ニューオーダーAIの管理する社会で生きる人間は幸せだといえるのか?
人間にしか備わっていない感情や記憶を邪魔者扱いしたその先に、どんな世界が待ち受けているのか?
合理性を優先するAIは記憶を簡単にデリートしたり取り換えればいいと信じて疑わないけれど、そこで思い出されるのが、テセウスのパラドックスです。ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、その物体は果たして過去のそれと同じものだといえるのでしょうか……
ノイズの巻き起こす、密かな革命。これをBLで表現し切ったセンセイ、スゴイ(感動しすぎてカタコトになっている)。
管理社会へのディストピア的な憂慮は昔から議論されてきたことですが、わたしはこの、対立するものを消し去るのではなく、より高い次元に昇華させようとするアウフヘーベンみたいな終わり方に、すごく夢があると思いました。
※トートに感情が宿る際、助けてくれたのはオリジンたち、しかも…2055のあの人でしたね!!!
彼らに託された希望を、ミカたちはどう実現させていくのか…やっぱりまだまだ続きが見たいです。