このレビューはネタバレを含みます▼
表では人間、裏では妖怪をおもてなしする三毛猫旅館の板前さんが黒風です。居候の狐・良夜のつまみ食いを叱りながら、日々美味しく美しい料理を作っています。その良夜が、百年前に人間の絵師が描いてくれた自分の絵を買おうとして鬼の大将・幽厳に先を越されてしまい、取り返そうとして弟の紅丸に目をつけられてしまいます。良夜の護衛を申しつかった黒風は、百年も絵師とその絵を探し続けた良夜の思いの深さを初めて知るのでした。闘う相手が欲しくて骨董品から魂を抜き出してバケモノを作り出す鬼の兄弟や、黒風の素性などが徐々に明らかになり、上下巻たっぷり使って黒風と良夜の寄り添ってゆく様が描かれます。色気より食い気の良夜の幼さや、黒風の優しいけれども自信が持てず煮え切らないところなど、妖怪ながら人間臭くて面白かったです。黒風の帰りを待ち続けるカワウソたちが健気で可愛らしく、時々登場する河童とアマビエのカップルにも癒されました。『吾心を食む紅』ガラリと空気が変わって、人間ならば業と言うべき鬼の兄弟・幽厳と紅丸の繋がりが語られます。『袖触り合うも他生の縁』黒風と良夜がついに探しびとと巡り合う幸せな短編です。