ミドルエイジはやさしく愛したい
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ミドルエイジはやさしく愛したい

町屋はとこ

思秋期の純愛

ネタバレ
2025年9月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ ジャンル:人生、穏やかでほろ苦い中年BLです。

45歳、同い年のゲイ、阿南駈と井田賢治。旅先で出会った二人は、パンデミックにより職を失い、人生の帰路に立たされている者同士だった。別れが惜しくなる夕暮れ、同じ宿だとわかった瞬間、嬉しい気持ちが溢れる。互いにカミングアウトし、ゆっくりと探るように縮まる距離。
もっと近づきたいのに、45年分の経験が重くのしかかる。気遣いのつもりで言葉を飲み込み、なかなか踏み込めない二人。若くない体は寝ても重いままで、疲労からか労災案件に巻き込まれる井田。献身的に支えようとする阿南を有難く思う反面、居た堪れなくなり、不本意な形で突き放してしまう。
互いを想うが故のすれ違い、いらぬ苦しみ。それは自分の弱さから目を背け、素直になることを恐れていただけだと気づいた井田の選択とは――。

中年の危機、焦燥感、寂寞感。人肌が恋しいのに言えない、素直になれたらいいのに耐えられてしまう、恥ずかしいと思われたくない、弱さを晒け出せないと、45年の歳月をかけて纏ってきた男らしさの鎧から抜け出す井田が格好良かったです。私も歳を重ねるほど素直になろうと決意しました。素直になるのに今更だとか強さだとか、そんなの関係ないんですよね。

井田は、自分は隠れたまま相手に知って欲しい、愛されたいし愛されて嬉しいのに愛されたら愛されたでそわそわ落ち着かない面倒なおじさんですが、共感します。優しくて穏やかで与える愛の人、阿南さんと出会えて、あのとき助けようとして、あのまま別れる選択をしなくて、本当に良かった。(セルフケア怠りがちな井田、一人にしておくと普通に心配)

築き上げてきた価値が、予期せぬ形で揺らいでしまった中年男性が、相手を通して自分と向き合い、パートナーと第二の人生という宝物を手に入れる、心温まるストーリーでした。人生の後半、二人のペースで原野を駆け続けて欲しいです。
番外編は『人生の楽◯』に出演する彼らを想像しながら読んでました(笑)
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