目眩はまどいのつがい
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目眩はまどいのつがい

早寝電灯

文学的・哲学的で深いい話…タイトルも秀逸

ネタバレ
2025年11月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 作家さん買いする勢いで集めている先生のお一人です。内容が、文学的というか哲学的というか…とにかく深いいといつも思います。タイトルからして秀逸で、目眩とまどい、どちらも身体なり心なりの「揺れ」を表し、かつ韻を踏んでいて、その二つはつがい(番)だとこれも韻を踏んでいます。また、目眩とつがいはオメガバースにかかっていて素晴らしいと思います。

それは、まるで凪いだ水面に水滴が一粒落ちて優しく広がる波紋のような、風ならば1/fの揺らぎのような、音ならば小鳥の囀りのような、微かな動きが優しく心に沁み渡るようにジンとくるお話でした。

特に文学的・哲学的だと思ったのは…「なんのしがらみも求めていないつもりだったのに、自分の存在に気づいてほしいと確かに思った」とか「ブレーキもアクセルも踏まないようにしてるのに、勝手に気持ちが動く」とかのセリフです。「気づいてほしい」というのは欲というより希望を持つことで、ニュートラルにしていても気持ちが傾いていれば(傾き=坂なので)自然に動きますよね。その恋をしている時の心の動きを、何とも詩的に表現されているのが素晴らしいです。

ラスト付近のセリフ「〜とるに足らない日常のくり返し。地面が揺れて転んでも 世界ごとひっくり返らないように〜」は、目眩にかけているのかなと思いました。全体的に重厚感があるのに透明感がある、寂しげな表情が多いのに幸せな気持ちになる、矛盾しているようで調和の取れた不思議な気持ちになる作品でした。
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