このレビューはネタバレを含みます▼
初めはセシルのことをあぁよくいるスカした腹黒王子様系キャラクターね。と思ってどこか冷めた気持ちで読んでいたのです。しかしこのスカした腹黒王子様、婚約者のことになると慌てたり腹を立てたり存外感情豊か。
この物語の凄いところは「人に興味を持てないスカした腹黒王子様」が感情を揺さぶられる女性。に非常に説得力があるところです。この物語の主人公であるバーティアの魅力は何と言っても作中で馬鹿と罵倒されるレベルの向こう見ずな善性です。何でも持っていてなんでもできるセシルが唯一持っていないものは善悪を判断する力です。だからこそバーティアという善性の塊が隣にいることにより、良い方向へ進んだのです。バーティアは乙女ゲームの主人公にはなり得ないでしょうが、セシルの唯一には彼女しか成り得なかったでしょう。
結局セシルは最後までスカした腹黒王子様でした。ですが、一度バーティアを失って涙を溢した彼は、決してよくいるキャラクターではなく、血の通った「セシル」という1人の人間でした。
人を弄んで、蔑んできた彼が、初めて唯一を知り、唯一を通して人を慮ることを知る。
だからこそ終盤の彼のあの涙が沁みるのです。
この物語は歯に衣着せぬ言い方をするのであれば、よくいるあるあるのキャラクター達で構成されています。その彼らが、バーティアという特異点を中心にこの物語独自の個性を持ち、意志を持ち、今までになかった物語を生きていく姿がどうしようもなく力強く、尊いのです。それはヒロインも例外ではなく、最後に自分の意志で、自分の足で「ヒローニアの物語」を後にします。彼女はこの物語のヒロインにはなれませんでした。ですが、これから先も彼女の物語の主人公は間違いなく彼女なのでしょう。個人的にとても好きな結末を迎えた人物でした。
初めはよくある物語と思い読み始めましたが、いつの間にかバーティアの言動に笑い、周りの友人達と一緒に慌て、最後にはセシルの涙にこちらまで涙を溢すほど、物語に引き込まれてしまいました。一人ひとりに血が通ったとても良い物語を見せて頂きました。