薫りの継承
」のレビュー

薫りの継承

中村明日美子

禁忌の薫りがただよう作品。

ネタバレ
2026年1月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「薫りの継承」という題字からして、薫りが何世代にもわたって受け継がれていく大河物語か、あるいはたくさんの子供や友人や周囲の人間に行き渡っていく様子を描くオムニバス形式かと思っていた。しかし読んでみると、妻から義弟、義弟から夫、そして息子、息子からその友人…と非常に近い間柄で色濃く伝わっていく禁忌の愛執の物語だった。読んでいた自分にもその匂いが漂ってくるようで、官能が鼻腔をくすぐってくるような体験は初めてだった。
この物語には「フェロモン」でも「香り」でもなく「薫り」が一番ふさわしい。「フェロモン」だと動物的な荒々しさと情熱を昇華するニュアンスがあり、「香り」は軽さと明るさを含む一方、「薫り」は魅力的な響きの奥に 背徳や経年など様々な要素を隠し持つ印象がある。二次元的な絵によって一層薫りが立体的に匂い立っているように錯覚してしまうところも、「薫り」という言葉の奥行きを感じさせる。
最後のシーン、銀行前にいたホームレスのおじさんが、スキー旅行のときホテルで武蔵に声を掛けてきた人と同一だというのをレビューを読んで気づいた。両目に黒い布を巻くことが行為へのスイッチをつける意味なら、片目に眼帯を付けている彼は常に半発情状態みたいだと思った。だからホテルのロビーで武蔵を口車に乗せ部屋に連れ込むという、節操なしだったのかと。
もしくは、彼は理性と本能を切り替えるスイッチが半端ではないかと思った。これは本作のモチーフが「月と六ペンス」であることを示唆した名考察にもある通り。彼から忍へのセリフは、〈義弟からの愛を「理性で冷酷にはね退ける」または「世間体を捨て本能で受け入れて溺れる」、どちらかに振り切ってしまえば君に世間一般の幸せはあったのに〉というメッセージだったのかもしれない。異常性愛者の彼の苦悩が滲み出た言葉のように自分には感じられた。
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