500年の営み
」のレビュー

500年の営み

山中ヒコ

ハッピーエンドの定義を考えさせられる物語

ネタバレ
2026年2月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ 今まで記憶に残る作品はいくつかありましたが、たった1巻でここまで強烈なインパクトを受けたのは、これが初めてかもしれません。
それくらい強く心を揺さぶられました。

主人公は山田寅雄。
寅雄の最愛の恋人が太田光。
名前でずっこけた、そこのあなた!
私も、ギャグめいた名前に最初は戸惑いました。
しかし、深く重い物語を読み進めるにつれ、この名前の現実味の無さが有り難く思えてくるのです。

スタートから不穏です。
まず光が轢死したニュースが流れます。
その直後、寅雄はマンションから身を投げます。
「光がいないなら生きていても仕方ない」と。

九死に一生を得た寅雄が目覚めたのは250年後。
目の前には死んだはずの光が…。
でも、目や髪の色も中身もちょっと違う。
その正体は、本物の光よりも3割減のアンドロイド、ヒカルなのでした。
奇妙な同居生活をするうち、寅雄にとって光の代用品ではないヒカルそのものになった頃、突然ヒカルは姿を消します。

なぜ、ヒカルは突然いなくなったのか?
そして、寅雄が取った行動とは?

ラストは思いきり泣けます。
そして、そのラストが単純なものではなく、ハッピーエンドなのか否か、人によって解釈が別れそうなのです。

主人公は、あの場所に生きてたどり着けたのか?
アンドロイドが250年もの間、過酷な環境で作動し続けることができたのか?
無事に2人が会えたとして、あの場所で生きることができるのか?
最後の二人の服装の意味は?

現実的に考えれば考えるほど、ハッピーエンドとは思えない要素があり過ぎるのです。
もしかしたら最後の場面は、2人が夢見た光景なのかもしれない。

しかし、もし物理的には実現しえなかったラストだったとしても、それはバッドエンドなのでしょうか?
私にはそうは思えません。

光亡き後「生きることの意味」を失った寅雄は、ヒカルという存在を得たことで、また生きる希望を持つことができました。
寅雄は500年という年月を経て、ようやく生きる希望を得て、生まれて初めて精一杯「生きること」ができたと思うのです。

だから、もし現実の結末があの場面通りでなかったとしても、寅雄にとっては紛うことなきハッピーエンドだと。
それは、アンドロイドでありながら人間の寅雄に愛されたヒカルにとっても。
このように、ハッピーエンドの定義を考えさせられる深い深い作品でした。
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