髪を切りに来ました。
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髪を切りに来ました。

高橋しん

この1週間1番、頑張ってたのは あんたさ

ネタバレ
2026年4月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 一巻の終わり、頑固なオジイがオリオンビール持ってやってきて、髪を切るシーンのセリフに、号泣してしまいました。
春田睦さん(美容師のお父さん)も、目を見開き涙でびしょびしょになりながら、髪のカットを続けていたけれど、真面目で毎日をコツコツとこなしていくタイプの春田さんは、きっと「自分は頑張ってる」と思ったことも、「だれかに認めてほしい」と思ったことも、この瞬間までになかっただろうに、その言葉をもらった瞬間に、すごく乾いていたところに水滴が滴ったみたいに、一気に色をかえて蘇ったものがあって、それがとても大事だなものだったと気付かされたような、そういう途方もない宝物のシーンだと思うのです。

自分と重なりあうところなんて全くないと思っていたのに、漫画って、こういう思いがけない贈り物をくれることがあります。欲しいと思ったことなかったのに、欲しかった言葉が突然もたらされる。

キャラクターを通していま自分にいちばん必要だった労りを、心に寄り添ってくれたこの漫画を、愛しく思います。

2巻では、出張散髪のシーンで、読者として恐れていたことが起こりました。春田さんの美容師としての技術を「ちょっとやってくれんね」で次から次へと無償で奪われていく、その無邪気な隣人たちに打ちのめされる春田さん。プライドめったうち、気付かれにくい心への集団暴行。日差しもきつく、ひどく体力を奪われるなかで、やりとげたあとの一言。春田さんの誇りと高い矜持が少ないセリフにあらわれて、心が痺れました。
間髪いれず電気設備のお兄ちゃんがやってきて、いたわりと怒りを共有してくれた展開が救いでした。
ただ、その日の夜の、春田さんの、言葉にできない痛みを、モノローグで「お父さんは、」「なぜかうまく言葉にならなくて」とカタチにしない、悔しさとも恥ずかしさとも違う、いたましさに心がギュッとなりました。

沖縄言葉では「かわいそう」に該当する島言葉がなく、かわりに「わたしの心が痛みます」という言葉があるそうです。

感情に名前があるのは、その気持ちが芽生えたあと、ひとと分かり合えたとき、その気持ちを共有したいと願ったあとだから、かもしれません。

まだまだ春田さんは、分かりあう道程の途中にあって、島暮らしは小4の失語症の息子が離島転入した小学校を卒業するまで時間があります。すごく頑張ってるよ、春田さん。見届けさせてね。
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