どうせなら彼岸まで
」のレビュー

どうせなら彼岸まで

かきのたね

今年の最高傑作

ネタバレ
2026年7月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 前作『双子と先生』で「当て馬」キャラとして登場した酉市が主役の物語です。

長年の(宇佐美への)恋が完全に終わり、心が空っぽになって車道に飛び込もうとしたその瞬間、彼の人生を強引に引き止めたのが、もう一人の主人公・錦木(にしきぎ)でした。

本作の最大の魅力は、「人生のどん底にいる人間同士が、お互いの傷に触れ合いながら生気を取り戻していく過程」の丁寧な描写です。

錦木の一つ一つの言葉で酉市が抱えている自己嫌悪が拭われていき、「自分が嫌いでもええんよ、それが自分なんやし」その言葉で私自身も無理して自分自身のことを好きになろうと思わなくていいんだこれが自分なんだなとそんな自分を受け入れてあげれるようになりました。
酉市が錦木の言葉で救われていく、そして錦木も酉市と過ごす中で救われていくという
正反対な二人なのにうまく噛み合っているそんな二人がほんとうに最高なんです。

錦木は一見、図々しくて人生諦めモードの適当な男に見えますが、実は察する能力と優しさを隠し持っています。酉市がふとした瞬間に見せる失恋の傷や生きづらさを、錦木は否定もせず、重くも捉えず、ただただ心地よく受け止めずけずけ踏み込んでくるのに、絶対に傷つけないという優しさもあるのです。


圧倒的な心理描写と色気、かきのたね先生ならではの、キャラクターの表情や仕草から漂う「切なさと色気」が本作でも健在です。

失恋の生々しい痛みを知っている酉市だからこそ、新しく芽生える感情への戸惑いや、錦木が見せるふとした優しさに溺れていく姿がドラマチックに描かれています。
前作を読んで酉市の幸せを願っていたファンはもちろん、本作から初めて読む人でも「深く傷ついた大人の、痛くて愛おしい救済ラブストーリー」として極上の読書体験を味わえる一冊です。
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