残酷な神が支配する
」のレビュー

残酷な神が支配する

萩尾望都

胸を締め付けられる名作でした

ネタバレ
2017年8月4日
このレビューはネタバレを含みます▼ 全10巻全て拝読しました。
萩尾望都先生の作品はいくいくつか知っていましたが、個人的には最も心を打たれた作品の1つです
社会問題問題とも言える重いテーマに真摯に向き合いながら、愛とは何かと言う難しい内容に深く切り込んだ物語だと思います。

ジェルミを傷つける残酷な描写には読んでいて心が痛みますが、彼がどれでけ心を傷つけられたのかを表現する為には必要な描写だと思いました。
そして心に大きな傷を背負ったジェルミがその事にどう向き合い、もがき苦しみながら答えを探していく過程には本当に胸が締め付けられます。
一度傷ついてしまった心は決して元には戻らない。戻らない傷を抱えながらどう生きていくのか?
純粋で繊細過ぎる心に刻まれた傷が、その後の人生にどれだけ苦痛をもたらすのかと言う事を改めて考えさせられました。
もう1つのテーマである、傷ついた人を愛する人間の苦悩。
イアンは加害者の息子でありながら被害者であるジェルミを愛してしまう為、その苦しみを一心に受けてしまいます。
心身ともに健全で強く逞しい、魅力溢れる若者であるイアンでさえ、ジェルミの苦しみと向き合い救う事がどれだけ困難な事かを知り、何度もその闇に引きずり込まれそうになります。
そこに描かれる2人の心理描写は凄まじく萩尾望都先生の作品の奥深さを改めて実感させられます。

一度傷ついた心はどれだけ愛を与えても簡単に救われる事はない残酷な現実。
それに向き合う人々の苦悩と愛を描きながら、困難な道のりにも希望がある事を示唆する素晴らしい物語でした。
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