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今月(4月1日~4月30日)
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シーモア島


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現代の羽衣伝説2025年2月3日高嶺の花と思っていた美しい淑女が、ひょんなことをきっかけに手の届くところまで下りてきた。羽衣こそ出てこないが、相手の女性は伝説の天女さながらの天衣無縫ぶりで、熟女らしからぬ恥じらいとたおやかさをガテン系男との絡みのなかで表す。まさに殿方の夢。物語では実際に、未亡人になってもなお深窓の令嬢という設定で、主人公の男はある日を境に、女の身内により逢瀬を阻まれる。我慢して我慢して居場所を突き止め追いかけて、そして・・・。焦らされた果ての再会も男の欲心をくすぐる快作である。なお本書は表題作の他に、「大揺れエクス夕シー」なる短編も併録されているが、これはあっけらかんとしすぎでフィクション性が強い印象。以上勘案して星は三つ。
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悪くないけどね2025年2月3日和服の未亡人が久しぶりに男と肌を合わせ、目下の欲求不満を解消し渇きをいやす。登場人物いずれもハッピー。大いに結構。男女が一戦を終え、シャワーを一緒に浴びたりと、女性にとっては嬉しいと感じる手厚いアフターフォロー。このアフタープレイ描写の充実さが本作の特長。ただ難を言えば、ヒロインの出身である九州ことばがここでは読者の気持ちをクールダウンさせる方向に作用すること。いや、わかりますよ。その土地土地の人々がみな標準語でよがるわけもないし。でも、性愛小説にコテコテの訛りは違和感しかないですよ。たとえはんなりの京都弁であっても。内容の充実度で星3つ。標準語だったら4つでもよかった。
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「深雪は私にとって『も』菩薩だった」2025年1月12日高名な美大の教授が逝き、残された年の離れた未亡人を、弔問に訪れた弟子筋の教員が自分のものとすべく挑む。これには、故人である教授の遺書ともいえる教員宛ての書簡に妻の後事を託す旨が記されていることが伏線となっており、それに導かれるように二人は肉体を重ねる。そして書簡には、未亡人の特徴的な性癖が付言されていた。それは・・・ネタバレ回避させて頂くが、亡くなった男よりはるかに若い未亡人が着物姿で、故人ゆかりの男と繋がる筋書は著者の鉄板の展開だが、本作はそれがマンネリに流れず、純、静、美といった長所的要素が色濃く感じられる良作である。亡き教授は書簡の中で告白する。「深雪は私の菩薩だった」・・・読者もまた、たおやかな女盛りのヒロインに観音菩薩のような慈悲の心をみるのである。
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繰り広げられる性愛曼荼羅2024年12月22日藍川女史初期作のなかでも異色の宗教団体が舞台の長編。いちおう仏教の一宗派といった形態はとっているが、布施だの供物だのと称して女体を教祖様や幹部信徒たちが貪りつくすというあらすじ。もともと原始仏教も男女のまぐわいを表現した像や宗教画が多いが、本作で展開するプレイは倒錯を織り交ぜた俗悪きわまりないもの。それでもおどろおどろしい彫刻や催婬効果のある香木などのガジェットにより婬靡な雰囲気を堪能できる。なお、表題の母娘のお母さんの方、自宅での旦那との絡みはちょっと不自然だよ。それでも星三つはあげられる。(レビューの入力制約により置換しているが、上記「婬」の字の扁は、実際には ’さんずい')
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⤵2024年6月22日本作はフランス書院より1993年に刊行された「稜辱秘書室」(※)の改題。よって重複買い注意されたし。評価を先に言うと星ひとつだけ。初期作品の中でも厳しい見方しかできない。(※ワード制限のため代替。実際は「稜」の字の扁は「にすい」)
主人公は設計事務所に勤める美形で頭もいい秘書にして人妻、という設定だが、その人物像が内面外面とも描ききれていない。そのために物語が進む過程で彼女が遭遇する出来事の反応が浮わついたものに感じられ、読み手も感情移入できない。ストーリー展開もぎくしゃくしており、しっくり来ないことから疲労感も溜まる。プレイ内容はノーマルなものはほとんどなく、強制牲交、SM、レズ、ス力トロ・・・と倒錯もののオンパレード。カバーイラストから穏やかな淑女によるしとやかなロマンスを想像されて購入をお考えの方々は、よくよくあらすじや他サイトのレビューも参照して検討されたし。いいね
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三つ目のベッドの主は?2024年6月8日「愛の別荘」と同じく、男女の絡みの部分だけを三部にわけて終始描き続けるというシリーズもの。ヤマ場だけで良く、助走やクールダウンに当たる前後の記述は不要、という嗜好の読者には嬉しい構成。内容は、「かつてつき合っていた男女が再会」し、「女は結婚していて、昔の男が忘れられず道ならぬ逢瀬」となり、「倒錯した性癖の別の男女が介入」し、「同性愛&見せつけ」プレイという、藍川作品の多読者にとってはお馴染みのモチーフが結び付けられている。但し、二組の男女による同じ部室での同時多発工ロは起こらず、ん? 何のためのトリプルルーム? と、読んでいて引っ掛かったものの、まぁ何かの象徴として舞台にしたのだと読み込みの浅い自分に言い聞かせ、再読、三読することとしている。
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勉強になりました2024年3月24日本作「愛の別荘」は上・中・下の三部の短編に分けられ電子書籍で配信され、三部あわせて中短編とも言うべきボリュームの作品となっている。さて内容は、上巻開始早々に不倫の絡みがスタート。珍しく助走らしき導入部がない。登場人物はヒロインと、相手であるアラ還(藍川作品に数えきれないくらい頻出する設定)の二人のみ。その両名の関係についての説明はプレイに並行して効率よく(手っ取り早く)記述され、ほぼ全編にわたって男女の営みの描写に終始する。文章表現のひとつひとつは同氏の作品でよく見られるものの寄せ集めという印象で、この点で作品群の中では際立った個性はないが、道ならぬ恋に踏み出す女性心理の活写ぶりにはなるほどと頷かされる。例えば相手の男が多数の女性遍歴を経て、今度は自分との関係を持つに際し、自分が大勢の中のひとり見られているだけかもしれない懸念を抱く女がいかにして自身と折り合いをつけるか、といった点などである(具体的な内容は読んでのお楽しみ)。なので地味ながら異色作と云える。はじめから終わりまで性描写という濃密さも評価する向きも多かろう。一方でプレイ内容はオーソドックスの積み上げである点などを考慮し、星は3つとした。
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酔えなかった2024年2月26日もともと週刊大衆に連載されていたものを双葉社より文庫として刊行した長編である。仕事とともに妻をも別れて失いそうな悲哀を負った男と、その伯父が繰り広げる女性遍歴の物語。コミカルタッチなのはまだいい。「濡れて、あっはん」という雑誌連載時の表題からわかるように作品を貫く骨子というかテーマが見いだせないこともまぁまだ良い。だけど伯父さんの局部描写がちょくちょく出てくるたび、現実以上に冷めた世界に引き込まれそうになるのは参ってしまう。これは伯父さんの登場シーンは飛ばして、ひとつひとつの性描写の文章を楽しむに如くなし。あ、いちおう最後は主人公が生きる活力を取り戻すというハッピーエンドになっとる。
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現実味のある虚構と、虚構らしい虚構2024年2月23日最初にお断り。本作品は後年、「美しくもミダらに」(→カタカナ部、本来漢字だがコードに抵触しカナ書き)なる表題で、双葉文庫より再版されている。重複買いに注意されたし。
さて作品は、カイロプラクティック医院に再就職した元銀行員が、雇用主である院長とともに、施術の延長で女性のカラダにイタズラし、行きつくところまで発展、というパターンを状況を変えて繰り返すオムニバス的性格の長編。プレイ内容はあけっぴろげで、ターゲットとなる女性は男二人を前にあっけらかんとハダカになり痴態をさらす。藍川京作品愛読者のやなぎやこから見れば、氏「らしくない」いかにも虚構ですといっているようで、如何せん気持ちが入っていかない。文章のパーツパーツはそそるものの、作品全体を見渡すと「これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません」と行間行間で連呼されているかの如くで、リアリティから遠い世界の物語に思え、気分にブレーキがかかる。カバーイラストの女性像は美しいんだけどね。いいね
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やはり、上手い2024年2月22日登場人物は食品メーカーの社長と、その部下の嫁。嫁と言っても、物語の設定では、社長の部下に当たるヒロインの夫は早世しており、社長がその寡婦を自分のものにするというスジ。花好きなヒロインに自宅の庭を見せるという名目で呼び寄せ、行為に及ぶ。しかし、作中では倒錯や際立って派手なプレイは出てこない。至ってノーマルな責めを、和服、紫式部の花といったガジェットを絡ませて積み重ね、耽美で妖しい短編に仕上げている。非常に美しく、それでいてしっかりと工口い世界に読者をいざなう本作は藍川京氏の真骨頂というべきもので、百戦錬磨を自負するやなぎやこもうならされた。唯一の難点は、カバーイラストで、作中のプレイを忠実になぞる姿態を描いているが、人物の顔立ちがヒロイン悠香子とちょっとちがうような気がする。
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誘惑の季節2024年2月17日藍川京作品の愛読者のやなぎやこ、本アンソロジー収録の「誘惑の季節」につきレビューする。なお本作は図書(単行本・文庫)のかたちでは他に出版されておらず、雑誌「特選小説 1997年6月号」に掲載されているのみという点でレア作品。ちなみに雑誌では、山本タカトの挿絵がよくマッチしていて秀逸。
脱線したが、主人公は二十代半ばの若妻。世代の近い官能小説家に似ていたため人違いされたことが発端になり、ロマンスへと発展していく。おりしも主人公は夫が仕事が多忙なことから夫婦間の営みがご無沙汰で、性の渇きに直面していたこともあって相手の男の誘いに乗ることに。藍川作品の中では斬新な筋書きで、男女の絡みに至る過程で大いに気分が盛り上げられる。性描写の部分ははわりと短く、その一方で、一戦交えた後の文章が長く続くが、その短所が短所と思えないほど総合点で高評価。
さて、アンソロジー全体の評価であるが、作者や読者層およびその好みまで多岐に亘るため、ニュートラルとする。いいね
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番外の番外編2024年2月4日同じ女流作家の藍川京氏が解説をお務めということで、蒼井凛花氏の「愛欲の翼」にレビューを投稿したのが一昨年の10月。今般たまたま同じ著者による本書が地元の図書館にあったので閲読。
本作はキャビンアテンダントの独白を皮切りに、女性たちが次々にリレー形式でみずからの赤裸々な性体験を披露していくという構成。持ち味である若々しくみずみずしい文体は、著者自身の端麗な容姿、および元CAという華やかな経歴と相まって、多くの読者を魅了することだろう。各々のエピソードの内容はネタばれ回避のため詳述しないが、正直言って現実味に乏しい。但しそのことを、航空機や客室常務にかかわる専門知識を駆使してリアリティを持たせることで補っている。
なお惜しむらくはプレイ内容が、それぞれシチュエーションこそ変えているが、どこか画一的で単調に感じられ、また上述の通り虚構然としすぎていて、現実世界の住人が感情移入しにくいところか。いいね
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紐2024年2月4日藍川京作品愛読者のやなぎやこ、ここでは本アンソロジーに収録されている「紐」についてレビューします。
本作は既婚のミドル男女が織りなすロマンスで、舞台ももはや著者の庭先といっていい京都の町。女性の、相手の男の配偶者に対する細やかな心情も描かれ、また性愛小説の核たる絡みの部分にも十分な長さが確保され、手堅い短編に仕上がっている。ただし、作中には、ソフトながらSMプレイも少なからず描かれているが、小道具として題名ともなっている紐の迫力が弱い。紐を使ったプレイがなんとなく浮いているのである。アブノーマルプレイに関心のないやなぎやこ的には不要とさえ思え、倒錯なしでねっとりと書いても十分いけるシチュエーションではなかったかと思える。それでも女性が魅力的に表現され、ファン以外の読者も読んで損はないと思う。そしてアンソロジー全体の評価であるが、各著者の作風も読者の嗜好も広がるためニュートラルとさせていただいた。いいね
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今夜は感じすぎるの2024年2月4日藍川京作品愛読者のやなぎやこ、ここでは本アンソロジーに収録されている「今夜は感じすぎるの」についてレビューします。
主人公は過去に短期ながら水商売のバイト経験のある人妻。その当時客として来店していた男との再会を契機にロマンスが展開される。初めての不倫に躊躇いながらも男のリードにより徐々に禁断の領域に足を踏み入れていくストーリー運びの達者ぶりは本作でも健在で、メインの絡みの描写もなかなか工夫が凝らされていて宜しい。道ならぬ関係に揺れ動く女心の記述が丁寧であり、プレイ描写も濃密で、藍川氏の作品で頻出する「ねっとり」と表現される筆致がいかんなく発揮されている。本短編に限れば星4つとしたいところだが、アンソロジー全体の評価となると、各著者の作風も読者の嗜好も広がるためニュートラルとさせていただいた。いいね
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そこに愛はあるんか2024年1月21日主人公は高校を卒業してすぐ結婚した美貌の人妻。京都を舞台に、かつて自分の教師だった男との道ならぬ恋が展開する。結婚後もなお身持ちの悪い夫に見切りをつけ、自分から教師にコンタクトし、宿泊先のホテルにまでついていき、誘惑する。プレイ描写も教師の立場を気にして積極的になれない男に、女が猛然と仕掛けていくほどのタフネスを見せる。若いながらも欲望をむき出しにする主人公の性豪ぶりがテンポよく描かれ小気味よい。一方で肛門愛撫はないが、ストーリーの流れや、どこか清純さを残す十代の主人公の性格を勘案すれば、むしろその内容で良いことが、本作を読めばおわかり頂けるだろう。特筆すべきは、ほぼ全編を通じて男女のお互いに対する愛情が溢れ、美しく仕上がっていること。作品の良否を決する点は、某消費者金融のCMではないが、「そこに愛はあるんか」。高評価。
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鶴に、戻らないんかい2024年1月14日タイトルでわかるとおり、本作は知らぬ日本人のいない昔話から題材をとったと思われる短編作品で、登場する女が『鶴乃』という名前であることや、男が女を助けたことをキッカケにして深い仲になる点など、ほぼ『鶴の恩返し』がベースであることは間違いなし。但しこちらは歴史ものではなく、女も鶴に変身して戻る結末とはなっていない。さて、肝心の性描写の方だが、優しく、心細やかな鶴乃の性格が詳細に描かれ、その上に指戯、口戯、本番が濃厚かつ多くのスペースを割いて記されていて、大いに読者の気分を盛り上げる。星数は迷った。3は明らかに超えている。が、四捨五入してやはり3か。でも、こうして昔話を土台にしてめくるめく性愛の世界をあらたに創作するという試みは歓迎したい。
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青春遥かなり2023年12月9日妻子持ちの主人公の男性教師(49)が、二十一年前に心奪われた教え子との再会から、その時果たせなかった思いを遂げるという、男にとっては切なくもノスタルジーをくすぐる物語。そうなんだよ。男は未練がましい生き物なんだよ。と、読んでいて共感しきり。しかし、である。女流作家の著者がこれほどまでに男目線に立てるというのが驚き。著者に対するとあるインタビュー記事で、男性読者から、「先生、男心を理解できるんですか?」とよく訊かれることがあるというのを読んだ。こうした鋭い人間観察眼も他の追随を許さない所以か。性描写は至ってノーマルだが、清純な学生が二十年以上の時を超えて好色な一面を隠さぬ熟女に変貌しているさまは、まさに脱皮を遂げた白蛇を彷彿とさせる。やなぎやこも本作を読んで触発され、昔の恋愛経験を思い出した。W不倫に至る女の心理の過去からの変化をもう少し掘り下げて欲しかったため星3つとしたが、おおいに想像力をかき立てられる良作であることは間違いない。
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不貞行為の一線の線引きはどこに2023年11月28日大学を卒業してすぐにコンサルタントと結婚して優雅な専業主婦生活を謳歌しているヒロイン。それが、夫の仕事が多忙になり夜の営みが遠のいた途端、不満をかこつようになる。社会人経験がないとこうなるものか。やがて友人と訪れた名古屋で、ヒロインは溌剌としたミドルの内科医と出逢い、ホテルの部屋をともにする。だが、作中では最後の一線、つまり挿入行為には及ばずに終わる。ヒロインはそのことを理由に、これは不倫ではないと夫、というより自らに言い聞かせる。昔から世間一般、どこをもって一線とするかは色々言われてきた。本作のように牲器の結合に至らなければよし、とか、コンド―ムを装着して直に触れ合わなければセーフ、とか。本作に戻ると、やなぎやこはその設定にリアリティがあっていいかなと。別の異性との運命的な出会いを心の底で求めている既婚男女にとって、うんうんと頷きながら読めるのではないだろうか。
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呑んでみたさのワカメ酒2023年11月27日またまた出ました未亡人。本作のロマンスのお相手はヒロイン夫婦お抱えの庭師。旦那の没後、庭の様子を見に来た男は、ヒロインに屋敷の中に招じ入れられ、酒食を供され、その流れでヒロインの美体も馳走になる。詳細はネタバレを避けるため書かないでおくが、しっとりゆっくり、ほどよく抑制を効かせたストーリー運びのなかで、ワカメ酒というのが出てくる。これも詳しくは読んでのお楽しみだが、美女の躰の一部を使って呑む酒はまさに、「白玉の 歯にしみとおる ~」の牧水の心境に通じるか。ただ惜しむらくは、これも何度か他作のレビューで書いてきたが、アラ還という男の年齢設定はどうにかならなかったものかね。一応作中では歳のわりにモテるというキャラづくりがなされているが、せめてもう十歳ほど若い壮年の方が現実的だと思うのだが。
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星3.422023年11月17日以下7作品より成る短編集。
・梅雨の花
・閨
・寄り道
・赤い海
・女梅雨
・記念日の夜
・残された記憶
これらはいずれもシーモアでひとつひとつバラ売りされており、それぞれすべてに、やなぎやこはレビューを寄せておりますのでご参照を。さて、ひとつの冊子としてこの短編集を俯瞰するとなると、7作品の評価を平均した結果、タイトルにあるとおり標準よりやや上の星数。なべていささか年寄り男が多く登場しすぎる印象。よもや男の読者の劣等感を刺激しないための配慮でもなかろうが、男ももう少し若くて魅力があった方がヒロインもより幸せになり、読者も幸福になるんじゃないかなぁと思う梅雨ならぬ秋の夕暮れ。いいね
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穴ルセッくスは・・・ない!2023年11月17日満たされない日常生活に飽いた人妻がかつての交際相手にコンタクトを取り再会し、あとはお決まりの展開。ヒロインが自分から電話を掛けて求めに行くなんて、さぞや意欲旺盛な肉食女かと思いきや、再会を果たしてからは至って中性の熟女の振る舞い。ただ新鮮だったのは待ち合わせ場所の北鎌倉から、一戦交える場所に選んだ横浜中心部へと移動していることで、古都と都会の鮮やかな対比が作品に華を添えている。さて、シーモアの紹介文ではァナル牲交が含まれているかのような書き方であるが、実際には肛交はない。これって景品表示法違反ぢゃないかぁぁ! と声を張り上げたくなるが、まあプレイの内容もなかなか宜しいので目くじら立てないでおこう。それにしても相手のアラ還男があんなに元気なのは少々無理がある。プラスマイナス材料交錯の結果、星3つ。
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一粒で二度美味しい2023年11月3日本作品も著者の長編・短編を問わずよくある未亡人もの。しかし、シーモアの作品紹介を事前に読んで、特に期待を持った。配偶者の四十九日明けに、まるで故人があの世から直接送ってきたかのようにヒロインのもとに宅配便が届く。手紙とともに入っていたのは、いわゆる大人のォモチャ。孤閨の淋しさに耐えかねていた中、手紙の言葉に導かれるように、ヒロインは玩具を夜の供にするようになる。故人の生前の手配による贈り物はその後も断続し、やがて女は亡夫の事業の後継者との只ならぬ関係に入り込んでいく。こう書くと、やっぱり多くの他作と同じではと思われるかもしれないが、本作はそれを堕落と感じさせない線にとどめ、貞淑なヒロインがしとやかさを失わないよう、上品な工ロさを保持している。そうして読み進むうち、終わり近くに藍川作品のファンにも嬉しい「贈り物」が。処女作『華宴』の主人公の名前が登場する。題名に「宴」の一字をかぶせているのは二作品を結びつける意図か。かかる演出を抜きにしても、全編にわたりしっとりとうるおいのある文体で貫かれた佳作である。
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蛇頭龍尾2023年10月24日独身熟女の京都での突然の出逢いからのラブロマンス・・・読者にとっても何度も来た道。今回の舞台は洛北の名所、戻橋。冒頭から相手の男が現れ打ち解けるまでの紙幅が短い。何度も京都ロマンスを書いているうちに、とうとう端折るようになったか、と邪推がきざしたものの、いざホテルで一戦するに及んで惹き込まれるようになった。まず、ヒロインが男女の睦みごとに積極的で肉食の性格であること。意外とこの手のキャラクターは藍川女史の作品の中では多くない。この登場人物設定が絡みの幅を広げていて、ページをめくる手が知らず速くなる。プレイの記述に女の貪欲さが反映されていて高く評価したい。にもかかわらず星3つどまりとしたのは、相手の男がアラ還という年齢であること。またジぃさんか・・・。もう、これはやなぎやこの性分というか、好みなので悪しからず。
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もうひと伸びほしい2023年10月14日主人公はアラ還の男。娘夫婦を従え初詣に北鎌倉へやって来たところ、かつて懇意となった部下の女との偶然の再会を果たす。その時はホテルまで一緒に入っておきながら、土壇場でキスもすることなく終わった両者だが、時を超えて再び巡り逢ったふたりは今度こそ・・・となる。なるが、どこかちぐはぐ感が。寒風に耐え他に先駆けて咲く一輪の梅花の描写は可憐でつつましく、それでいて力強さを感じさせるが、物語と同化していないというか、白梅が白梅で終わってしまい、花と切り離されて描かれているのは今や人妻となった相手の女との営みのみ。女性がなぜ不倫を犯してまで過去の男とベッドインするのかといった心の揺らぎにも触れられず、モヤモヤが残る。星は2.5。四捨五入して3。
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エイナス(英語の発音)2023年9月8日題名の天竺牡丹とはダリアのこと。その花にゆかりのあるヒロインは若くして未亡人となっている。幼馴染を訪ねて、再会し、そして・・・。いくら情感豊かな作品を数多く著している氏のファンにしても、さすがに何度も似たようなパターンが続くと食傷気味になりそうだが、そうはならなかった。男女の絡みに突入してから本作の個性が明らかになる。肛穴への愛撫が長く続くのである。内部に指や道具や「全長」を挿入しない限りノーマルの範疇と考えるやなぎやこにとってこの作品は新鮮。ただ、この器官への責めの描写に多く紙面を割いたせいか、その後の展開が少々駆け足でせわしない。それでもやなぎやこは夫と死別したヒロインの幸せを願ってやまない。そしてふと思う。ダリアの花の形状はまさにヒロインが集中的に愛されたその部分にそっくりではないか。
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ひねりが加えられていて宜しいのでは2023年7月17日本作は状況設定が他の作品で多く見られるものと若干異なり、嗜好が凝らされていて新鮮です。別の男がパトロンであった美女との偶然の出会いから主人公の男の身の上はとんとん拍子に展開し、めでたく当の美女と結ばれ、ふたりの新生活がはじまったものの・・・これから先、ネタバレ回避で筆を止めますが、決してバッドエンドではないのでご安心を。ただ惜しむらくは、カバー画と、物語から想像されるヒロイン像が一致しない。佐藤ヒロシ氏の作品は嫌いではないが、ここでは作品で描かれる女性像が、華やかな経歴である一方、読もうとしていきなり下着姿のイラスト、しかも目が炯々としていて怖い。イメージとミスマッチしています。でも、まあ内容はまずまずなので星3つでよいかと思います。
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読み応えあり2023年5月15日短編集だが、やはり表題作「もっと深く」にコメントせずにはいられない。ストーリーは40歳を過ぎて未亡人となった主人公が孤閨の淋しさに耐えかねて元カレのもとに押しかけて、あとはお決まりのパターン。だが再会するまでのヒロインの逡巡ぶり、迷い惑う心理描写がことさら丁寧で、簡素な筋書きでもパーツを丹念に掘り下げて書けばこれだけ読み応えのある作品に仕上がるのだという好例である。そしてカラミの部分。記述の質・長さともに力作というべき出来。ここではあえて詳しく書かない。お薦めなのでご自身で読まれたし。その他にも秀作を収録。正直なところ、氏の短編集はやなぎやこの好みに照らして当たりはずれがあったが、本作品集は佳いと思う。
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(レビュー改訂)ジワジワくる好著2023年5月3日(2024/2/4 改訂および再評価)
ヒロインは過去に短期バイトながら水商売経験のある人妻。その当時客として来店した男と再会してロマンスが展開されるという筋書き。初めての不倫に躊躇いながらも男のリードにより徐々に足を踏み入れていく展開の焦らしぶりは本作でも健在で、メインの絡みの描写もなかなか工夫が凝らされていてよろしい。道ならぬ関係に揺れ動く女心の記述が丁寧であり、プレイ描写も濃密で、藍川氏の作品で頻出する「ねっとり」と表現される筆致がいかんなく発揮されている。実は、初読の段階ではそれほどの読後感ではなく星3つとしていたが、再読してレベルの高さに気づかされた。ここに謹んで評価を改めさせていただく。作品を評価することの責任の重さを痛感。いいね
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妖精のロマンス2023年3月21日タイトルにもなっている「森の妖精」とはいったい何者か、は明かしません。本作は雰囲気で読ませる藍川作品のなかでも特にヤマ場である男女の営みに持っていくまでの過程が秀逸です。舞台は十和田湖、八甲田山。京都など古都を多用する氏にしては珍しいと言えますが、北東北の名所の美しい描写が、ヒロインの揺れ動く心情によく投影され、妖精の魔法よろしく甘美な境地を演出しています。性表現も丹念で、一歩一歩丁寧に、読者の気分を高めてくれます。ただ1点、個人的な趣味かもしれませんが、ヒロインの身上設定が子持ちの主婦というのが少々、生活感が出てしまい、盛り上がりを冷ましてしまうかも。そのため星はひとつ差し引いて四つとしました。
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手堅い仕上がり。反面際立った特徴も・・・2023年3月8日藍川京作品の愛読者のやなぎやこ、今回は「秘本・陽炎」収録の本作品につきレビューします。ヒロインは二十二歳の女子大生(と称する。事由はネタバレ回避のため読んでのお楽しみということで)で、水商売のアルバイトをしています。店の常連のオジさんたちを相手に可憐に振る舞い、可愛がられるが・・・結末にドンデン返しが。この手のシチュエーションは、登場人物の振る舞いやストーリー設定に比較的自由度が高く持てるせいか、実は藍川作品にわりと多く見られます(京都+着物+熟女 ほどではないですが)。性描写はといえば、やや淡泊。若く、性に奥手(を装っている)な女性ではそうなるのが自然ですが、プレイ内容に個性が乏しくなっている点は否めません。終盤でヒロインの「本業」のパートナーである同世代女性が登場してレズプレイが披露されますが、抑揚のない調子を盛り返すには至らず、熟慮の末、辛めの星二つとしました。なお、本作は、シーモアでは取り扱いがありませんが、氏の短編集「情事のツケ」(祥伝社文庫)にも収録されています。
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少々暗いトーン2023年1月21日本作は、かの「源氏物語」をモチーフにしており、文庫本で420ページを超える大作。主人公に「光」の字が、主人公の生母に「桐」の字が、継母に「藤」の字が当てられていることからもそのことがうかがえよう。後半部分のもう一人の主人公というべき、事故により両親を失い、養子縁組で主人公の妹となる「紫織」と主人公の近親相カンに至るまで「源氏~」の筋書きに忠実たらんとしていることがうかがえる反面、力が入りすぎたか、文芸作品とも性愛小説ともつかない宙ぶらりんの仕上がりとなってしまっているのが惜しまれる。かつ性描写が、物語の比較的早い段階からアブノーマルプレイに傾斜しており、読み手によっては拒否反応を示す向きもあるかも。また原作に沿っているため、登場人物の死も相俟って全編を暗い雰囲気が覆っている。一方、文章表現の流麗さはさすがで、そう言った部分も楽しめるため星三つでも良いかと思ったが、熟慮の末ふたつとした。
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年寄りと絡まなくてよかった2022年12月4日広い屋敷と体の渇きを持て余した女、それと屋敷の執事兼用人の高齢の男。他の作品にも同様のシチュエーションがあったが、本作の読後感は妙な言い方だが、ホッとした、というものである。「女主人」では、老いた男の下半身の描写がでてきて「勘弁してくれ」というかそけき悲鳴を内心上げたものだが、こちらはその展開に至らず、それどころか男女の営みも、ない。ヒロインは25歳の社長夫人。夫以外の異性経験がないまま結婚し、そのためか、ウブさを残しつつ夫婦生活を送っていた。その夫が長期出張で家を空け、夜間は家政婦も帰宅しヒロインと執事の男のみ。淋しさのせいかヒロインは就寝できず、執事を自分の寝室に呼び部屋を同じくして眠ろうとするところから事態は発展し・・・。半分ネタばらしになってしまうかも知れないが、執事はヒロインにこれまで経験のない、オナ二ーの仕方を教え込んでいく。ヒロインの夫の予期せぬタイミングでの帰宅を気にする執事の心理描写は少々くどいか。反面、ヒロインのネグリジェからヘアが透けるという記述はグッとそそられた。
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斬新な設定。そそる2022年12月4日高齢の書道家の弟子にして不倫相手だったアラフォーヒロインが、師匠の没後、欲求不満でいるところに書家の孫に出会い、物語が展開する。その後の運びは性愛小説お決まりのパターンだが、随所にこれまでの熟女vs年下男との構図にない試みが施され、大いに満足のいく一編である。ありがちな、年上女性が遊び半分に相手を誘惑するというものではなく、肉欲と大きな年齢差という現実との狭間で葛藤する主人公の揺れ動く胸の内が詳らかにされ、このストーリー展開が徐々に読者の気持ちをかき立てていく。そして、幸せなクライマックスへと一気に繋がっていく筆致は、著者の高い文章力、構成力を感じさせてくれる。高評価。お薦めである。
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良い意味で裏切られ2022年12月4日三十代後半独身美女のラブロマンスだが、出だしはアラカン男との不倫描写で凡作かと少々落胆した。しかしその後、舞台を表題にもある京都に移し、年下との男との絡みに移行。「京都」「偶然の出会いからの逢瀬」は藍川作品に数多く登場するシチュエーションで、他の多くと異なる点は、ヒロインの装いが和服でないことぐらいか。だが、異性との邂逅から営みに至る描写が丁寧で、プレイの内容も愛情あふれるもの。読み進むにつれ最初のがっかりは完全に失せ、引き込まれた。ただ、あえて注文をつけるとすれば、ヒロインの立ち位置が、年上の男を待ついじらしい女と、京都で出会った年下男をリードする女豹と複雑であり、その二面性をもっと深く描き分けられるとなお良かった。ともあれ、無理なく丁寧な物語展開は星四つの良作という評価がふさわしかろう。
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少々過激すぎでは2022年11月3日本作は藍川氏初期の長編「秘密俱楽部 人妻教育」を、2009年に加筆・改題の上出版されたもの。従ってすでに「秘密倶楽部~」をお持ちの方は注意されたし。内容は、主人公である人妻が、配偶者の弟と道ならぬ関係に陥るというもの。近親であるはずの二人はどんどん深みにはまり、やがて人妻は暴力と倒錯の地獄へと足を踏み入れていく・・・。一冊子を構成させるためにはノーマルなプレイだけを淡々と綴るだけとはいかないのはわかるが、ちょっと過激路線にきりすぎではという感想。少なくとも倒錯ぎらいのやなぎやこ的にはアレルギー反応ものである。「ゆいな」という愛らしい響きの名を持つ主人公が不憫で不憫で。。。
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番外投稿その22022年10月30日藍川京作品の愛読者であるやなぎやこ、本作はその藍川女史が解説を務めている関係で、番外編的にレビューします。
藍川作品に目が慣れたやなぎやこ、本作の第一印象は文体がフレッシュで若々しい、というもの(お断り:何も藍川氏や他の書き手の作品がくたびれているということではありません)。
主人公は美人のスチュワーデス、もといキャビンアテンダントで、後輩CAからの思いもよらない相談を、場当たり的ながら処理するところから物語が始まります。何しろ著者は元CAというだけあって、ディテールが鮮明に描かれていて、リアルと虚構が巧みに織り交ぜられた上質のエンターテインメント作品に仕上がっています。藍川氏といい、本著者の蒼井凛花氏といい、暴力的にならず、表現も飛躍し過ぎない点が女流作家の共通の特長かなと思いました。いいね
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投稿番外編2022年10月27日藍川京作品の愛読者のやなぎやこ。レビューは氏の作品に限っているが、本作はその藍川女史が解説をくわえていることから、番外編ということで、巨匠の作品を振り返ります。主人公は三十路の人妻。夫との満たされぬ夫婦生活から他の男とのロマンスを繰り広げ・・・という、とっかかりはありふれたシチュエーションながら、行為の描写は読んでいて、いい意味で呆れるほどじっくりと、深みを持って展開され、さすがとうならせられる。女の性を研究し作品の中で掴み出して読者の前にどんと置く。その求道者ぶりは、あたかも作中で血道を上げて人妻をいたぶる男達と姿が重ね合わされる。やなぎやこ、読んでいて欲情するどころかその創作力と文章のレベルの高さに感心し、鬼才と凡夫との埋めがたい懸絶を感じるのであった。団鬼六作品ではやはり「花と蛇」が筆頭に上がるが、あれだけの長編、心身を削って読んでいくのが少々辛いという方には、本作を入門編としてお薦めする。
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わかっていても2022年10月16日氏の作品の定石ともいうべき独身熟女による偶然の邂逅によるロマンス。似たようなシチュエーションの作品をいくつも読破してきたやなぎやこから見てまたか、と思う話だが、もはや中毒というべきか、わかっていても目を走らせてしまう。そして、わかっていても展開される筋書きに大いに興趣をそそられるのである。それはリアリティあるフィクションの世界で、読者である自分もこうした出会いがあれば、という夢を抱かせてくれる。本作もその世界を堅確に守り、読後感まで含めて読み手を満足させる出来となっている。星は3つとしたが、実質⒊5と心得られたし。読んで損なし。
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いささか過激すぎでは2022年10月8日本作は後年「黒い館」というタイトルに改題のうえ出版された作品。従ってご興味を持たれた読者も重複買いによくよく注意されたし。内容は主人公の人妻が、配偶者の弟と道ならぬ関係におちいるという筋立て。近親であるはずの二人はどんどん深みにはまり、やがて人妻は暴力と倒錯の地獄へと足を踏み入れていく・・・。一冊の長編にものすにはノーマルなプレイだけを淡々と書き続けるわけにはいかない事情はわかるが、ちょっと過激に振れすぎではと感じる。少なくとも倒錯ぎらいのやなぎやこはアレルギー反応が出た。「ゆいな」という愛らしい名の主人公が可哀想で可哀想で。。。
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やはり過激すぎでは2022年10月8日本作は後年「黒い館」というタイトルに改題のうえ出版された作品。従ってご興味を持たれた読者も重複買いによくよく注意されたし。内容は主人公の人妻が、配偶者の弟と道ならぬ関係に陥るという筋立て。近親の二人はどんどん深みにはまり、やがて人妻は暴力と倒錯の地獄へと足を踏み入れていく。一冊の長編にまとめるにはノーマルなプレイだけを淡々と書き続けるわけにはいかないことはわかるが、ちょっと過激に振れすぎなのでは、と思う。少なくとも倒錯ぎらいのやなぎやこはアレルギー反応が出た。「ゆいな」という可愛らしい名を持つ主人公が可哀想で可哀想で。。。
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不倫の匂いと認めたものは2022年10月5日藍川京作品愛読者のやなぎやこ。今回はアンソロジー「秘典」に収められた氏の短編「不倫の匂い」につきレビューします。ヒロインの夫は仕事が忙しいものの、家庭内に波風も立たず、幸せな日々を送っている。それがある日、妻のものした日記を偶然見てしまうことから物語は急展開。ネタバレしないよう詳細は語りませんが、最後は誰も傷つかず、バッドエンドにならずホッとします。全編をほのぼのした調子で推移するぶん、性愛小説としての見せ場はやや力不足の印象。ヒロインが書いた日記を絡み相手の男が盗み読む、という筋立ては氏の作品によく見られるパターンだが、本作はハード度、濃厚さがもう一歩。星は悩んだ末2つとした。但し作品集「秘典」の中には大御所南里征典氏の作品もあり、ご興味ある方は手にとられるとよい。
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佳い作品です。けれど2022年9月23日既婚のミドル男女が織りなすロマンス。舞台はもはや著者の庭先と言っていい京都の町。女性の、相手の男の配偶者に対する細やかな心情も描かれ、また性愛小説の核たる絡みの部分も十分な長さが確保され、手堅い短編に仕上っていて、良作と言える。ただ、作中にはソフトながらSMプレイも少なからず描かれているが、小道具として題名ともなっている紐の迫力が弱い。紐を使ったプレイが何となく浮いているのである。アブノーマルプレイに関心のないやなぎやこ的には不要とさえ思え、倒錯なしでねっとりと書いても十分いけるシチュエーションではなかったかと思える。それでも女性が魅力的に表現されていることなどを考えあわせ、星三つで着地。読んで損はないと思う。
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おトク感はあり〼2022年9月22日不倫もので中年男とややそれより若い熟女のアバンチュール。読んで おや? と思ったのは、絡みの部分に至る助走というか導入部が他作品に比べ非常に短い。あっという間に男女の営みに突入です。では、尺をどうやって確保しているか。それはアブノーマルプレイに入り込んでいるから。とはいっても、まあ倒錯ぎらいのやなぎやこから見ても許容範囲。なのでヤマ場を長く楽しめ、おトク感はあると思います。ただ難を言えば、やなぎやこが「雪見酒」のレビューで指摘した点がここでも見られる。すなわち「主語」が一定しない。作中の文章が男目線になったり女の視点になったりと一貫性を欠く。ゆえに評価は星三つどまり。それでも題名にもなった、芳い体臭を放つ女性、一度巡り遭いたいものである。
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火の花2022年9月9日藍川京作品の愛読者のやなぎやこ。Vol.1のトップを飾る氏の「火の花」につきレビューする。本作は冒頭より火の花(=彼岸花)の赤が鮮やかに描かれ、読者の視界が紅一色に染まる。と思っていると、ヒロインの父、そして弟子でヒロインと結ばれる男が生業として取り扱う竹が描かれ、一転して清冽な碧緑が作品世界を彩る。話の展開も美しく、ヒロインのやさしい性格が丹念に表現されていることも相まって良品と言えるだろう。そこへもってきて、他の作品でも見られない上述の見事な色どりの対比。一本取られた! と思わず心中うなってしまうほどの計算し尽くされた文章術に、脱帽する逸品。
さて一方、アンソロジー全体の評価であるが、各著者の作風も読者の嗜好も広がるためニュートラルとさせていただいた。いいね
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花の赤、竹の碧2022年9月9日日頃藍川作品を愛読しているやなぎやこ。本作もこれまでの流れで自然にページを繙いた。が、読み始めてすぐに本作が非常に計算されて紡がれていることに気づいた。まず題名の火の花、これは彼岸花を指しているが、冒頭より花の赤が鮮やかに描かれ、読者の心の視界が紅一色に染まる。と思っていると、ヒロインの父、そして弟子でヒロインと結ばれる男が生業として取り扱う竹が描かれ、一転して清冽な碧緑が作品世界を彩る。ストーリー展開のヒロインの所作に優しい性格が反映され、温かみがあって好ましい。それに加え上述の見事な色どりの対比。一本とられた! 反面、色彩表現の仕掛けに気づかず最後までいってしまう読者もおられるだろう。その意味では、読者を試す、ある意味怖い短編である。
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遺された記憶2022年9月9日藍川京女史の愛読者のやなぎやこ。本書のトップを飾る氏の「遺された記憶」につきレビューします。亡母の形見の日記にあった想い人を訪ね、北陸に足を向けるヒロイン。そこでの思わぬ出会いから物語は一気に進む。供養のつもりか、母の元カレの足跡を追うヒロインの健気さ、ひたむきさに惹きつけられ、読者はページを捲りながら思わず感情移入して彼女の幸せを願う。ラストもヒロインの将来の幸せにつながることを予想させる終わり方で、すっきりとした読後感。星4つとする。
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梅雨の花2022年9月9日藍川京女史の愛読者のやなぎやこ。Vol.22のトップを飾る氏の「梅雨の花」につきレビューします。夫が借金している奥さんを、その友人である妻が連れ出して、主人公の初老男が玩ぶ、というストーリー。資金援助のカタに関係を求めた女性をゆっくりゆっくり男が自分のものにしていく過程を楽しむ嗜好が凝らされている。読者諸兄には短気を起こさずじっくりと読み進んで頂きたい。本アンソロジー全体の評価は、作者や読者層およびその好みが多岐に亘るためニュートラルとする。
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超常現象は性愛小説と相容れず2022年9月6日藍川京女史の愛読者のやなぎやこ。本書のトップを飾る氏の「妖花」につきレビューします。しかし、いいですねぇ。氏の持ち味である雅で流麗な文体は本作でもふんだんに発揮されています。主人公のややくたびれた感のある中年男が、偶然写真にうつり込んだ美女をもとめてSNSで出会いを呼びかけ求め続け、そしてついに・・・。サビである男女の絡みに行き着くまで美しい日本語で読者を焦らしに焦らせます。読者は長い助走区間を倦まず歩き続ける。登山に例えてもいい。クライマックスまで遠いのに、なぜ登る? そこに山があるから。だが、「頂上」に辿り着いたと思ったら相手の女性は・・・! ネタバレ回避しますが、個人的には女性の属性設定が官能小説にはそぐわないのではと思いました。美しい作品。でも星は悩みに悩んで3つ。それでも読むべき。
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実力派ピッチャー2022年5月26日夫の死後、1年半経過し孤閨にある未亡人がヒロイン。そこへ海外赴任中の継子の青年が帰省するところから物語が始まる。ヒロインと関係するのはその息子とヒロインの書の師匠。藍川作品ではよくある設定だが、ここまで読ませるのは、やはり著者の技量か。長編作品ながら、作中の時間の経過はわずかに足掛け3日間。その短い期間に矢継ぎ早にストーリーが繰り広げられる。が、内容は至ってノーマルなプレイ。息子との関係は近親モノと言えるが、血が繋がっていないので醜関係とは言えず。SMプレイどころか高齢の師匠のペ二スに対する口腔愛撫もなし。それでも雰囲気をしっかりと盛り上げていき、読者の気分を着実に昂めていく。手堅い筆致とボリュームある内容が両立しており、野球に例えれば、ストレートの緩急だけで試合を組み立てていくベテランピッチャーに例えられようか。安心して読め、しっかり楽しませてくれる。高評価。
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消化不良2022年5月1日女若社長が織りなす武勇伝といったところか。弱冠26歳にしてレストランを展開する会社の経営者に収まった主人公が同世代の男とアバンチュールを持った後、異業態で若い男をそろえたクラブの運営に乗り出すというストーリーで、その中に主人公の女友達も加わり「お祭り」を繰り広げるのだが、上述の同世代男以外は、まだ学生の男の子にプレイを仕込んだり、かとおもうとまるで使用人然とした前期高齢者の副社長による愛戯が物語後半の大部分を占める。これで読者に気分を出せと言うのは酷。誰が少年の後穴や、ヘアまで白髪を連想させる爺さんの局所で催せるのか。本書を手にとった段階で、表紙のイラストから、肉食女による組んずほぐれつの肉弾戦を予想していたが、壮年男との絡みは意外にあっさり。壮年男の弟も第一章で登場するが、主人公との交渉もなくフェードアウト。すべてにおいて中途半端。やなぎやこの評価はここでも辛い。
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意欲作だと思う2022年5月1日主人公の男子高校生が美人の叔母への性的関心から、叔母の学生時代の後輩をも巻き込みながらついに思いを遂げる、というあらすじ。1992年の著作「叔母と高校生 初体験講座」を、表記の題名・出版社にて再リリースした作品である。ベースは初期作だが、その多くに見られる刺激の強い倒錯プレイはなく(近親モノであることを除き)、思春期の男の揺れ動く心理をこまやかに描写しながら物語が進む。読者を焦らすようにじりじりとストーリーを展開させ、叔母が誘惑するかたちで主人公の願望が果たされる過程が楽しめるが、いよいよという叔母との絡みの記述は短くあっさりとして、かつ、どこかコミカルな表現になってしまっている。他にも叔母と恋人、叔母の後輩とその夫、叔母の後輩と主人公、とそれぞれ見せ場があるが、他作と比べいずれも淡泊な内容。かわりに主人公が自分で慰めるシーンが多く、長い。男の自涜シーンはほどほどに、年上の女性との行為をもう少し濃密に描いてほしかった。ちょっと厳しめとも思ったが、星ふたつとした。
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結末にどんでん返し2022年2月20日素人がプロの作品を評価する不遜を顧みずコメントすると、藍川女史の多くの作品に見られる順当なストーリー運び(→投稿者の主観)からすると、意欲作ではある。ネタバレさせるつもりはないので明かさないが、推理小説家裸足のエンディングに著者の引き出しの多さを知る。
主役は質屋を営む中年男。ヘルプのホステスとの一夜の逢瀬が描かれている。変化球は結末だけではない。首尾よく結ばれた相手の女の体には・・・。とにかく意外性盛り沢山の構成に投稿者も刮目。但し、である。感想は嗜好が多分に左右するであろう。少々辛すぎるかなと思いつつ星ふたつ。であるが短編で購入価格もお手頃のため、一読をお勧めする。いいね
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長編大河小説 第一章2022年2月3日主人公は16歳の、少女と言っていい夭(わか)い女性。母と死別し、父親とも再婚により別居。母方の叔母夫婦に引き取られ新生活を始めるが、そこのオヤジの性の対象になり、部屋を覗かれ女友達とのレズ行為を覗かれ、果ては自分の裸まで鑑賞されてしまう。全4巻の大長編作と知ってこの第一作を手に取ったが、はじめから主人公の性描写が惜しげもなく繰り広げられる。かといって、そこは16歳の主人公。読んでいてあまり艶っぽさは覚えない。第2巻以降、先は長いのだからとわかっていながら、もう一つ色気が欲しいところだった。個人的には主人公の叔母の緋蝶が、登場する女性の中で好みだが、如何せん見せ場が少なかった。次巻に期待。本編は長い物語の、まだまだほんの一幕に過ぎないと自らに言い聞かせたのであった。
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題名の重要さを知る2022年1月17日「人妻」というタイトルから連想するのは、配偶者がありながら道ならぬ恋に落ち、身も心も放下して官能の地獄に落ちる、あるいは夫のいる女性を力づくで慰みものにする、という筋書きだが、本作はそのどちらでもなく、いやどちらかといえば後者に近いが、とにかく表題と内容がリンクしていない。主人公の女性が夫に対する不義理を悔やむ場面は皆無といってよく、男たちに玩ばれる描写の合間に夫婦間の交渉の少なさを嘆く回想のみで、主人公の内面の葛藤がないだけストーリー展開に深みを欠いている。また主人公が味わうプレイの中身はSM・同性愛といった倒錯もののオンパレード。しかも単調な繰り返し。そして終盤に向けてレ〇プだの剃毛だの残り少ないスペースに無理やり詰め込んでいる感あり。後半は読んでいて疲れてしまった。佳作ぞろいの藍川作品だけに余計に不完全燃焼の読後感が際立つ。
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ちと盛りすぎか2021年12月18日未亡人となった兄嫁、喪服。世の男たちの嗜好に適うといわれているシチュエーションで、主人公と寡婦の性宴が繰り広げられるストーリー。初めは消極的だった兄嫁が、段々と官能の虜となっていくストーリー展開は、ある程度予測できていても期待させてくれます。・・・と、建て付けはいいのですが、読み進めていくと少々過激さが目につくようになります。藍川女史の初期作品の例にもれず大胆な性描写はお約束として、本作は特に巨匠・団鬼六の影響が色濃くうかがえるのは投稿者だけの感想か。のみならず終盤にかけて息切れというか、ネタが尽きたところを無理して引き延ばしているような印象さえ受け、ちょっと勿体ないなというのが正直なところ。中編程度の長さにとどめ、アブノーマルプレイはほどほどに、最後はふたりが健全な幸福感に包まれてエンド、とした方が良かったんじゃないかなぁ。
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貞淑な妻の変貌への序章2021年11月28日結婚時は処女、まったくのウブだった人妻を歳の離れた夫がだんだんとアブノーマルな世界にいざなう倒錯もの。表題の「記念日」とは主人公夫妻の結婚記念日のコト。その日を契機に初老の夫が、妻のもうひとつの処女を奪うことを画策する。物語は二人の馴れ初めから説き起こされ、じわりじわりと清純な妻が夫の提案するプレイを受け入れるまで、ゆっくりと展開され読者を焦らす。倒錯とはいえ内容はソフトで、妻も新しい世界の入口に立つところでエンディングとなり、「変身」し切るところまでは描かれない。なので多くの読者にも許容範囲と思う。異世界への扉を開けた妻がこの後どう変わっていくのか、続編を読んでみたい。
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ヒロインの健気さにやられました2021年11月18日亡母の形見の日記にあった想い人を訪ね、北陸に足を向けるヒロイン。そこでの思わぬ出会いから物語は一気に佳境に進むが、短編なのであまり書きすぎるとすぐにネタバレに行きついてしまう。正直言って本作は、地味である。ロマンスの相手との邂逅以外に話の急展開はなく、淡々とストーリーは進む。ヒロインの智佳にも顔立ちにかかわる表現はなく、美人なのか十人並みの顔なのかにも触れられない。それでも、供養のつもりか、母の元カレの足跡を追う智佳の健気さ、ひたむきさに惹きつけられ、読み進みながら思わず感情移入して彼女の幸せを願う。実際に結末も将来の幸せにつながることを予想させる終わり方で、すっきりとした読後感。星4つとするが、もしかして自分はこの作品の価値をまだ十分に理解できていないのではないかと省みてしまう。これホント名作じゃないのかな。
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焦らして焦らして焦らして・・・2021年11月18日夫が借金をしている奥さんを、その友人である妻が連れ出して、主人公の初老男が玩ぶ、というストーリーが、和服熟女、閉鎖的な屋敷内、そして季節の花という「藍川女史三点セット」の中で進む。本作では、資金援助のカタに関係を求めた女性をゆっくりゆっくり男が自分のものにしていく過程を楽しむ嗜好が凝らされている。この緩慢さは作家が多くの作品で登場人物に施させている焦らし作戦を読者に向けたものか、はたまた巨匠団鬼六の影響か。読者諸兄には短気を起こさずじっくり読み進んで頂きたい。それにしても藍川作品の「年増女と高齢男」の組み合わせの多さよ。しかしこの演出によって、熟女の大人の魅力と、自分より一回り二回り年上の男に甘える少女性を一人のヒロインの中に現出させる効果が出ている。同名の短編集のトップを飾るにふさわしく、しっとりとした仕上がりである。
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ぎこちない2021年11月8日能力も気位も高い若い女医を、医療界の権威者とその仲間が調教し服従させるというスジ。この設定に対しては何も言うところはないが、いかんせん文章遣いに粗さが目立つ。藍川女史も中期以降の作品であれば、本来あり得ないシチュエーションを滑らかな文体にくるんで説得力を持たせるのだが、本作は初期作品の例にもれず、フィクションがフィクションのままであり、今ひとつ物語の世界に入っていけなかった、というのが正直なところ。二十五歳のヒロインの人物描写も明瞭さを欠き、キャラが確立されていないため、揺れ動く当人の心情が伝わってこない。女医という分野は特に男性読者の関心をひくテーマだけに、もう少し後年になって女史が採り上げていたら、と惜しまれる。まあ、気高い女性を屈服させるという暴力的な展開はその方面の嗜好をお持ちの方々には満足できるであろう。が、特に偏った趣味のない皆様には・・・読んでてキツいかも。
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過小評価されていません?2021年10月30日2021年9月に当サイトで行われた幻冬舎アウトロー文庫のセールで意外な安値に驚きました。率直に言って、これは良作です。主人公は弁護士の40代後半の男。弁護の依頼者の地元に何度も出張するなかで出会う4人の女性たちとの遍歴を綴った作品ですが、性描写が他の作品に類を見ないほど繊細かつ濃密に描かれ、著者の筆に宿った魂を感じさせるオムニバスとなっています。多少、SM色を帯びた展開も散見されますが、倒錯を感じさせるには至らないソフトなレベルで違和感なく読むことができます。他の書評を参照すると京言葉がどうの・・・という向きもありますが、著者お得意の「和」にプラス、舞台の京都の雅味。これにて藍川女史の自家薬籠中、と相成ります。主人公の逢瀬の相手である女性は3人が熟女といっていい世代。1人が処女の大学生。うら若き彼女の存在が作中でのアクセントになっているとも言えますが、いかんせん若いヒロインは藍川ワールドとの相性が良いとは言えないのでは、とも思い星四つとしました。とはいえ女史の文業のなかでも脂のノリを感じさせる好著であることは間違いありません。ぜひお手に把られんことを薦めます。
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これは純文学です2021年10月23日藍川京のデビュー作。めくるめく耽美な性の世界を和のよそおいで表現した記念碑的な一編です。作中には後の作品にたびたび取り入れられるシーンがいくつもちりばめられ、本作が藍川ワールドの原点であることを認識させられます。
さて主人公は緋絽子という名の女子大生。本命の男と一緒になりたいなら、人里離れた旅館風の家宅を次々と訪れる男たちと関係を持て、と条件をつけられ、それに従い男性遍歴を重ねていく、という虚構全開の筋書き。しかも交渉内容がソフトながらSMその他フェチも含まれフルコースの様相。個人的にはここまで書くなら、ヒロインはウブな若者ではなく、ある程度世故に長けた熟女の方がすっと入り込めたような気がするが・・・。
いささか脱線したが、本作は作家が商業小説としての上梓を意識せず、これまで書きたいと思っていたことを綴った、という内容の後書きがあるように、純粋に表現者としての追究心から生まれたという点が特徴。その意味でこの作品は紛れもなく純文学に分類されてよいと思う。但し好みは分かれるか。特に主人公・緋絽子のキャラに少々主体性が見られず、男たちに翻弄されるだけの薄い存在に思えて仕方がない。ために星は満点マイナス1で4つ。いいね
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腹落ちした2021年10月15日男である投稿者に果たして得るものがあるのか、と半信半疑で手にとった本書。女流でも作家でもない身には正直、「なるほど。そういうものか」という心の反応しかしようのない部分が少なくなかったものの、一カ所、「おっ」と思う件があった。それは「親兄弟に見せられないような恥ずかしいものを書け」という著者の助言。躊躇いの壁を打ち破ったエネルギーを読者は感じて気持ちを高揚させる、と理解してストンと腹落ちした。著者が、書くことは体力勝負と書いているがむべなる哉。
また本書には随所に小説作品の引用もなされ、未読の作品にまだまだ楽しませてくれそうなものがあることを知ったのも収穫。藍川作品の愛読者諸兄(失礼。女性読者ももちろんのこと)はご一読を薦める。いいね
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甘く切なく、そして退廃的な2021年9月18日女流作家が主人公の甘く切ない不倫物語。これだけ言うとありふれたテーマとなってしまうが、全編をある種の退廃的な気怠さが覆っており、その中で主人公は夫以外の男との短く儚い時を持つ(余談になるが、その意味では文庫より単行本の装幀の方が作品の雰囲気をよく表している)。
本作の特徴は、とにかく主人公の仕事や恋愛に対する気持ちの移ろいが丁寧に描写されている点である。長い雌伏の後でやっと自己表現ができる作品を書けるようになり、仕事が上向いてきた自分と対照的に、先細っていく画業に悩む相手。初めて男女関係を持った直後をピークに徐々に感情の冷めを覚えて仕事との葛藤に直面する主人公。中年男の投稿者は主人公の心理の細やかな推移描写になるほどと思わされると同時に、相手の男の苦悩もひしひしと感じ取り、そうだよな、と共感を覚え、著者の筆力を見せつけられた感がある。
ともあれ、本作は日本人が好む「滅びの美学」に通じる耽美な一編。但し性描写は他の作品と比べ幾分抑えられているため、刺激的な官能表現を求める向きには少々物足りなさを覚えるかも。いいね
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藍川京の集大成2021年9月4日藍川京の現下の集大成といっていい作品。芸術性と官能性が高次元で両立されている。初期の、男性読者を意識して「書かされている」苦悩の時期を経て、漸く書きたいものを書けるようになり、作家本来の「らしさ」が作品に色濃く反映されている(このあたりの心境の変遷は同氏の他作「たまゆら」に投影されている)。
さて本作品の特長を端的に言えば、主人公の人物描写がこれまでの作品と比べても、ひときわしっかりと描かれ、実に魅力的なキャラクターとなっている点である。投降者自身も年甲斐もなく感情移入してしまった。主人公・緋美花が出会った男との営みで性的悦びを得る表現に触れ、読者も幸福感を共有する。読後は一転して満足を伴った脱力感にとり付かれるだろう。不幸になる人間は一切登場しない。その意味で最後まで安心して読める内容となっている。あくまで正統派官能小説の良作を求める男女におすすめの作品である。いいね
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