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今月(11月1日~11月30日)

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シーモア島
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投稿レビュー
  • 冬虫夏草(新潮文庫)

    梨木香歩

    旅する家守
    ネタバレ
    2025年10月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 序盤さっそく家守綺譚でおなじみの人々が登場。あの世の人高堂、マドンナダァリヤの君、寺の和尚(狸話!)、となりのおかみさん、編集者山内、新キャラ菌類オタクの南川それぞれと、主人公征四郎とのかけあいが、まあ絶好調(マドンナとは初々しさ最高潮) おお、コメディ風味をパワーアップされたのですね、と思ったけどそこじゃなかった。途中から征四郎一人旅。飼い主より格上のシゴデキ犬ゴローを探すため、またイワナ夫婦が営む宿に泊まりたい、と。鉄道で琵琶湖の東・能登川駅まで行きその後は歩く歩く。例のごとく人ならざるものと遭遇しますが今回は人との交流も多いです。「アケビ」の老夫婦プラス炭焼きのおじいさんとの会話なんてやたら心地良いです。妊婦で亡くなってしまった菊さんのパートは悲話なんだけど、霊になった菊さんにアタフタ、ドタバタする南川がいい味出してます。征四郎があちこちで優しいので、何度もほっこりします。
    旅の記録、神様や河童や里の人々との出会いの物語、家屋のようすや地域の生活・風習など色々な方向から楽しめます。そして征四郎が訪れたいくつかの村は今はダム湖の底に沈んでいるそうで(終盤、高堂が予言しています)失われていくものへの惜別・愛情の物語とも言えそうです。1つ不思議なのはダムが完成したのって昭和40年代みたいなんですけど…作者さま、いったいいつ現地を見られたのでしょうね? もしかして見てない? 見てきたとしか思えない空気感を感じますけれど…
    ラストシーン、喜びを爆発させる征四郎とゴローにこちらも幸福感いっぱいで読み終わりました。
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  • 家守綺譚(新潮文庫)

    梨木香歩

    切れ味よい文章にうっとり。だけど気になる
    ネタバレ
    2025年10月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 明治時代後半。亡き友人の実家で一人暮らしをする、売れない作家の男性が目撃・体験する不思議で妖しくて、美しかったりキテレツだったりするアレコレが描かれます。短めの文が多い、小気味よいリズムの文体がクセになります。短編集なもので最初のうちは唐突に終わりが来るような感覚になるのですが、慣れてくると結びの一文でやさしくストンと地上に帰されるよう。そんな快感に酔うごとく、読み進んで行くのですが… 作品世界になじむほど、どこまでが伝承や古い物語で、どこからが創作あるいは作者さまのホラ話かと気になる気になる! 植物の画像に始まって竜田姫と浅井姫の伝説、狸の七変化、詩の作者ロセッティなど検索しまくるハメに。植物の貝母(ばいも)の和名がアミガサユリ、と知ったときは作中の不思議な一軒家の女の「私は〇〇です」が腑に落ちたものの、某辞典的サイトで「化け狸」を開きそうになっている時は「私何してるのかしら?」と…😅 河童を運ぶゴロー(ワンコ)に和尚が言う「鯖の匂いのする道」は鯖街道のことだと思いましたが、河童の干物が弘法市で売られてたっていうのはホラ話? と思わされるあたり狸に惑わされているよう。作者の梨木先生こそ読者にとっての化け狸ですね、きっと😁
    最終話「葡萄」で主人公はある宣言をして、それが祝福されているかのような大団円的シーンだったのてすが、最後ちょっと待って、これから亡き友や怪異なアレコレを作品にするのよね?と思うわけです。ですがそこで作品の序文の一行を思い出し… あ、そっか書いたんだ、と思い至り、最大級の「ふわっと浮き上がって(あるいはぐいんと潜って)からのストンと気持ちいい着地」をした心地になりました。憎いなあ😆
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  • 家守綺譚

    近藤ようこ/梨木香歩

    上巻読了/下巻も素敵
    ネタバレ
    2025年10月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ (※レビュー書き直しました)
    今からだと120年ぐらい前。
    疏水と小さな山と川があり、山の向こうには大きな湖があるところ。
    主人公の男性は庭に木々と水路と池のある、素敵な二階屋に住んでいます。
    そこで仕事もするけれどゴロンと横になったりごはん作ったり食べたり、縁側で釣りしたり駅まで郵便出したり。「家守綺譚」なんだけどちよっと「家守生活譚」。
    主人公が出くわすのは恋心を持つ庭のサルスベリとか亡くなった友人男性(あの世とこの世の境界を越えてくるけどホラーではありません)、陸だと平たくなってるカッパとかカワウソの血をひく男とか、多様性どころじゃないんですが。
    でもこの主人公、学士として文筆家として、貧乏でもプライドと気概を持っているものの(明治の人ですものね)、素直でおおらかといいますか、ドキドキしながらもあるがまま不思議な生き物や出来事を受け入れていきます。
    漫画版の上巻と下巻のあいだに原作小説を読んできたところ、小説もとても良かったですが、漫画だとビジュアルはもうそこにあるので、主人公のとなりで不思議を目撃している気分。そして表情や目線があるので主人公の優しさも、より分かります。穴ボコ状態のサルスベリやゴロー(後にスーパー仲裁犬になる飼い犬)のことをよく気にかけているし、カッパの女の子や七変化のタヌキにも優しかったしネ。
    そして風景。疏水べり、山道、ススキの原の満月、幻想的な水辺、川と疏水の交わるところなど、ゆっくりゆっくり、読みたくなります。
    最終話の彼の宣言「家を守らねばならない」はすぐにはピンとこなかったのですが、読み返しているうちーああ、きっとこの不思議な世界の、文明や開発が進むと追いやられてしまう者たちの居場所を少しでも守りたいってことねーそう思ったら胸があたたかくなりました。優しい物語でした。
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  • 国宝

    吉田修一

    極道でも、役者でも。
    ネタバレ
    2025年9月17日
    このレビューはネタバレを含みます▼ やさしい語り口でテンポよく運ぶ文章がとても読みやすいです。ただし第一章は昭和時代ある地方の“組”同士の抗争の歴史から始まるのですが…

    極道の家に生まれた喜久雄少年は殺された父親の敵討ちに失敗(そして本当のカタキは別にいると喜久雄は知りません)したのち、歌舞伎役者の丹波屋・花井半次郎に預けられることになります。魅入られたように稽古に励み、数年後には半次郎の息子俊介をさしおいて、半次郎の代役をつとめるまでになります。(映画版を見た後だと舞台姿や劇場の昭和感などが目に浮かぶのでよいですね😄)
    その後俊介の失踪、半次郎の死と続き喜久雄不遇の時代になります。生まれや後ろ盾が大事な世界ですが喜久雄は自分の出自に負い目は持ってないんですね。喜久雄には世話になった恩は忘れないという信条があって、それは極道時代と変わらないというのが理由の一つのようです。そして世話になった人の借金は自分の借金だ、とスルッと1億以上背負い込んだりします。また祇園の芸者さんとの間にお子がいるものの「歌舞伎役者に隠し子がいたぐらいで誰が驚くねん」というのが一般的な価値観、という時代なのですが、年代とともに世相・風潮が変わっていくさまも当時の出来事、流行りとともにつづられていきます。
    その後も紆余曲折、山あり谷あり、幸せも苦しみも濃縮されたような人生なのですが、散りばめられたエピソードがなんだかとてもよくて、たとえばイビられ続けの喜久雄が映画に参加したら、ロケ先でさらに散々な目に遭う話とか、徳治(何者かは省略)の綾乃ちゃん(喜久雄の娘)救出作戦の顛末とか、中年期の喜久雄が15歳のころの俊介との会話を思い出しているところなど…
    下巻ではもう親戚ぐらいには喜久雄とその周囲の人たちに親近感がわいているし、彼らが幸せだとうれしくなるのですが、終盤ご本人は他の人が踏み込めない場所へ、行ってしまわれましたね…じわっと哀しみがにじむ結末ですが、立花喜久雄という1950年長崎生まれの、とある歌舞伎役者の役者人生をここまでいっしょに過ごせて幸せでした。
    長々とすみません、お読みいただいた方ありがとうございました。
  • 1945シリーズ番外編

    尾上与一/

    うれしい番外編祭り/シリーズ振り返り
    ネタバレ
    2025年7月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 祝・新装版1945シリーズ完結!5組10人の主人公たちから色々な感情が伝わりました。
    再レビューですが誤表記、思い違い等ありましたらお許しを。
    ◯郵便飛行機より愛を込めて(26編)
    【わたしの星】、【弟がかわいい話】は琴平家のお兄ちゃんが優しい。【星空地図と六等星】は予科練のユキ、【高嶺の星】は兵学校の資紀坊ちゃんがお互いに胸の中の星を思いながら頑張る話。資紀と新多の絆も。【郵便飛行機より愛を込めて】は米国へ運ばれる恒と六郎を観察する1人の米兵の視点。ワケノワカラナイ生き物と見なしていたのがいつのまにか…
    琴平兄弟が再会する【桜雨】は衝撃的ながらホロリ。【甘い話】と【分類384】は坊っちゃんいったい、どんな顔でそのセリフ言うてます?とつっこみたくなる話。【あの日の火の花】2人の体験を考えたらすっかり人が変わってしまってもおかしくないと思うけれど、変わらない気持ちや思い出 【夢の残り香】体のキズと心のキズと。よく帰ってきてくれました。おかえりなさい、月光ペア
    ◯謹製ヘルブック(25編)
    ほぼ藤十郎と伊魚の彗星ペア。ヘルブック仕様、つまりイタしてる場面が多い!です
    【薄氷】伊魚の身の上と藤十郎に会ってからの逡巡。【a nine day's wonder】と【網の魚の処方箋】篠沢の影。自分は汚いと思う伊魚への処方箋は藤十郎に心のこもった言葉をもらうこと、かな 【冬の魚】2人で伊魚の実家へ。夜は離れで…。母の歓待に複雑な気持ちは抱くものの、藤十郎はある決心を。小さめの声で伊魚に切り出す「一緒に住むなら…」そして家を建てましたヨカッタネ
    ◯海鷲に告げよ(20編+まんが1編)
    【南方からの手紙】ムチャな飛行をする塁。その親代わりの衛藤と現地保護者城戸の手紙のやりとり。2人ともまだ若いはずだけど塁に鍛えられて?板についた保護者ぶり【元厄災の日】誕生祝。塁21歳、でいいのかな
    ◯拝啓、南十字星の下より。(28編)
    【風邪引きと餅】症状満載の恒、からの雑煮談義。最後に琴平家餅事件の犯人とおぼしき人がくしゃみをしてますが軍装なんです。戦争中だ(当然!) 時空がつながってあせりました。【拝啓、南十字星の〜】六郎が家族に手紙を。たぶん幸せ色 【歩兵の本領】大変な状況で希望もあるかないかだけど必死に最善を尽くす話 ジスウイッパイ チーム1945バンザイ アリガトウゴザイマシタ
  • 舞姫は暁に黄金の恋を紡ぐ

    尾上与一/もちゃろ

    「まるで物語のようだ」
    ネタバレ
    2025年6月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 設定がとっても凝ってます
    金を産み出す体質の一族が住む隠れ里、血を求められた過去、巫女のような役目の美形の舞姫(実は男子)、食べ物や動物にまで異世界感あふれて…
    ちょっと悲劇が似合いそうな設定ですが、しがらみを嫌う自由人ラジャン王子がまるで舞姫レネの運命を書き換えるかのように波乱を呼び込みます。ラジャン王子はうかつな面もあるけど、こうと決めたら一途。レネの恐れや勇気、頑固さをちゃんと理解してくれます。レネは舞姫の役目を終えたら神官になろうと考えていた人。欲がないことをお兄さんに心配されています。
    設定やハプニングについていくのが楽しいものの、2人のかわいい絡みもっとくださいと思っても後半更にハラハラの連続。襲撃された隠れ里は滅亡するのか、カタブツのレネは変わるのか、結婚できない状況を乗り越えられるのか…
    まさに怒涛の展開の結果、あきれるくらいに幸せ(物語のようなお話、なものですから)な、そして熱々の2人がいました。めでたしめでたし、でした。
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  • 1945シリーズ

    尾上与一/

    1945シリーズのとりこになりました
    ネタバレ
    2025年6月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ とってもよかったのでレビューに挑戦!

    天球儀の海/地方の旧家、離れに暮らす養子にきた若い男、冷酷な振舞いの跡取り息子。そして特攻の出撃までの残り時間は… なんかゾワゾワする流れと思ったらなんとも残忍な事件が起きます。とんでもない凶行なんですが、そこには隠された意図があって…というお話。ある人が犯人の真意に気づくところは心に染みる場面でした 年月を経てもうひと展開あり、ほろ苦さはあるものの意外にもあたたかな結末です。作品の前半で幼い子が海辺で遊んでいて危険な目にあうエピソードがあります この時の最悪の「もしも」がそのまま事件の隠喩になっていて、全部読み終えた後思い出して「ああぁっっ!!」となりました。

    碧のかたみ/ワルガキがパイロットになったような恒と、恒に振り回されつつ惹かれていく相棒の六郎。ケンカと懲罰の絶えない日常や南の島の基地での暮らし、空での戦いぶりなど読み応えたっぷりです BLの面でもはんぶんこして食べるパイン缶、雲の上の星空、手作りの線香花火、鼻歌の「星めぐりのうた」等キュンとなるシーンの宝庫なんですがさらに!
    「俺はもう俺の一番を決めたからいい」
    「…撃ち墜とされた気がする」
    「恋心だ、馬鹿」
    等々、おノロケやおバカも含めてこれでもかと甘いセリフの数々が投入されています。試練も訪れるし、《その後》の日々には葛藤や苦しみもあるかもですがひとまず、青春のキラキラと恋の甘さ、2人のまっすぐな気持ちが印象に残る作品でした。

    蒼穹のローレライ/塁がやっと望んだ夢は好きな人と穏やかに暮らすことーそんなささやかな夢すら持てなかったんですよね 塁の戦いと叶わなかった夢を思ってせつなくて泣きました。
    U字部品はノンフィクションと想像しましたがあとがきにも特に言及はなかったです けれど作者様が多くの資料にあたり、体験者の話を聞く作業をされたと解りよかったです。当時のラバウル基地や日本の空気を吸っているかのような、充実したシリーズだと思います