このレビューはネタバレを含みます▼
サイバーパンクの次にきたのは遺伝子改変に対する誘惑だろう。今、豚の内臓を人間に移植する技術が進んでいる。ペットのクローンも商業展開されている。そして人間が見ないふりをしていた最大の問題にぶちあたる。人とその他の生物の命に差はあるのか?人間の快適な生活や楽しみの為に他の生命はいくらでも搾取していいのか?と。この作品に登場したヴィーガンのハンナとギルバートはとても聡明な人達だった。ヴィーガンでも命を搾取している観点を踏まえて他人に強制する事はなかった。揶揄されがちなヴィーガンの思想を人の立場で明快に語った登場人物だったと思う。
そしてこの作品の舞台はアメリカでなければならなかったと読んでいて強く思う。各個人が自分の立場で語る。ファイアアーベントの人間への底知れない絶望はアメリカでの黒人差別が背景にあるだろう。オメラスのこの世に存在する事の不条理と苦痛はこの世に存在する事の根源的な問いかけになっている。この世は全ての生命にとって生きるに値する世界なのか?技術革新は人間の存在を根底から問いかけてくる。お前達は特別なのか?と。