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今月(4月1日~4月30日)

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シーモア島
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  • 午後の光線

    南寝

    なんて鮮烈な光を放つ作品なんだろう
    ネタバレ
    2024年10月30日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 一億光年に一度出会えるかどうかの読書体験。それを奪われたくなければ、ぜひ何の前情報もないままこの作品を手に取ってほしい。間違いなく漫画史に残る作品であり、多くの人の心奥深くに刺さる作品だと思うから。※以下ネタバレです。
    ***この時期のこどもは本当に色々なことが"ちぐはぐ"。バランスを崩せば一瞬、死はとても彼らの近しいところにいる。「俺が村瀬の一生の心の傷になるのはドキドキする」淀井がそう思うのは幼少期の不全感からくるのだろう。死んだらお父さんの代わりになれるのかな、僕を見てもらえるのかな。そんな無意識の声が聞こえてくるかのようで、彼が自分を傷つける痛みでしか自分の存在を確かめられくなったその過程を思うと胸が苦しくなる。村瀬が音読できなかった漱石の『夢十夜』が、1995年残夏にて、木の上にいる小さな淀井に重なる。その頃から始まっていた生の揺らぎ。その余韻は、踏切の前で未来を語る言葉に詰まり、村瀬の前でいとも簡単に世界を捨てようとした淀井に続く。生きる先の目的地が見えないと気づいたその瞬間の、漠然とした黒い不安に駆られた彼の切迫した心に立ち返る。
    そして、淀井の最期を目にして狂う母。彼女の心の傷は哲郎が"なんとかする"のだろう。淀井は死んでさえも母の一生の心の傷ではいられないと思うと切なく、小さい頃から彼が抱えてきた不安は誰にも見つけてもらえないままなのかと思うとやるせなく、隠れんぼが得意だけど見つけてもらえなくてつまらないと呟いた淀井を思い出す。そんな絶望でページをめくれば村瀬が淀井の乳歯を探していた。淀井の乳歯はまるで幼い頃の淀井そのもののようで、村瀬がやっとそれを見つけた時に両手で大事に包む1コマは、痛々しくもあたたかだった。
    最後。いつも村瀬の涙を「嬉し泣き?」と気にしていた淀井。「泣くと淀井は困った顔をするから」という村瀬。淀井が大人になれなかったことで村瀬は少し大人になった。淀井の見ていた世界を、大人になっていく村瀬がその目とその言葉で紡いでくれたら、と思う。それは悲しみなのか救いなのかなんなのか言葉にできないけれど「村瀬の目でいろいろな場所を見てみたい」淀井のもう一つのこの願いだけは果たされますようにと、ただただ祈らずにはいられなかった。
    ***紛うことなく自分の漫画人生に色濃く焼きついた作品でした。出会えて良かった、ありがとうございました!
  • 能美先輩の弁明

    大麦こあら

    哲学科出身者から愛を込めて
    ネタバレ
    2024年10月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ※単話版読んだけど単行本の購入迷ってる方へ。描き下ろしを読むために買いましょう。
    ※未読の方へ。安心してください色々履いてないところもありますけど絶対後悔しませんから買いましょう。
    ***
    こあら先生の作品コンプリートしてますが、この『能美先輩の弁明』はダーウィンもおったまげるくらいの過去作からの化け方で完成度やばい。読みやすくてかわいい絵柄×リアリティを詰め込んだ細部への拘り×への字のお口=「theこあら遺伝子」としてこの作品で見事に昇華された感じでございます。単純にすごい。そしてそしてウサインボルトばりの新記録で発売日当日からのレビュー数を叩き出してますけど……まあ当然だよね(全国の単話版1話から追ってる強火ファンのみなさんと肩を組んでいる気分です)
    で。
    最初哲学科BLと聞いた時は、"またまたこあら先生はニッチなところをつつきますなぁおほほ"なんてにやにや楽しんでいたけど、途中から、"あれ、これうちの大学ちゃう…?"と錯覚するくらいの哲学科あるあるライフが描かれていました。(正孝のタバコの銘柄とかね。)(確実に狙ってきてるよね。)
    一見哲学とゆーと、小難しいイメージだったり、敷居が高いわりに役に立たないものと思われがちかもしれませんが、が!!!実際は愛とはなんぞやとか、自分とはなんぞやとかを真剣に考えてるだけの話なのよね。漫画の中から瑛人や正孝がピュアに哲学を愛してくれていることが伝わってきて、すごく嬉しかったし、この漫画を読んで哲学に興味を持ってくださる方がいると思うと、なんかまじで泣ける。
    哲学してる学生にとっては、レジュメや論文って己の魂込めてる作品と同じなわけで、それを純粋に認めてもらえたり褒められたりするってこの上ない喜びなわけで。そこを作品のクライマックスに置いてくれたのがもう、最高すぎました。自分が表現したもの、創作したものを受け止めてもらえる愛のエネルギーを知っている作者さんだと思うと、レビューを書かずにはいられなかったです。
    どうかこの作品が末永く愛されますように。いつか『能美先輩の弁明』を囲んで読書会が開催されるのを楽しみにしています(レジュメ作らせて)。
    あーー本当によかった!瑛人と正孝に幸あれーー!!