このレビューはネタバレを含みます▼
一言でいうと、モラハラ被害者の描き方が雑。
ひとたび口に出した言葉や取った言動はなかったことにはならず、相手が今どんなに変わっていようが、その言動を取られた本人にとっては許せるものではない。許す必要もない。セクハラやいじめの被害者に対しては、きっと作者もそう言えるだろうに、モラハラを受けていた元カノの女の子には「あのとき口に出して伝えていたら違ったのかな…」のようなセリフを吐かせてしまう。被害者の描き方は、それでいいのか?
主人公の男の過去の言動はモラハラそのものであって、本人が変わろうが謝ろうが許されるべきものじゃない。今、元カノと同じような立場にある人がするべきは、さっさと別れて逃げること。「ちゃんと口に出して伝えなきゃ…」というのは、靴下ちゃんとしまえとか、そういうレベルの話であって、モラハラのような精神的暴力は、一度でも受けた時点で終わり。こういう社会的な問題を扱う作品だからこそ、モラハラを受ける女性たちには「逃げろ、あなたには相手を変える義務も責任もない、幸せになれ」と訴えてほしかった。
ところが、作者が女にやらせるのは、逆ナンで会った男と付き合わせるという自傷行為、そして謎の元カレへの反省。今の男とうまくいかなくなったところに、反省して変わったモラハラ元カレとヨリを戻すとか、和解とかするような流れになるのだろうか。ちょっと、いやだいぶ嫌だ。
モラハラ気質の男が七転八倒しながら変わっていく様を読むのは面白いし、男性たちの中の「男性とはこうあるべき」を変えることで彼ら自身が生きやすくなる、という視点は良いが、だからと言ってモラハラ被害者に被害当時のことを反省するような言動をとらせるのはまったくのお門違いだと思う。
女の作者にありがちな、「ひどいことをされても、ちゃんと自分の非を認めて反省する私、エライ!」とでも言いたげな女性の描き方で、辟易とした。
モラハラ被害者がモラハラ加害者に抱くべき感情は、「私も反省してます、変わってくれてありがとう」ではなく、「うるせーボケ、これに懲りて次の女には同じことすんなよ!二度とツラ見せんな!」である。許すにしても、「いつまでも怒ってても疲れるしこのへんで勘弁してやんよ!」という、自分のための許しであるべきだと思う。そういう展開になることを願いたいが、元カノのあの一言だけでもう、お金を払って読む気が失せてしまった。