このレビューはネタバレを含みます▼
試し読みから続きが気になりすぎて購入し、その日の夜に最後まで一気読みしました...。試し読みの段階から美しくもどこか闇を感じさせる雰囲気は感じていましたが、読んでみると予想以上に切なく美しい物語でした...。最後は号泣必死です。加えて、八田てき先生のどこまでも繊細で美しい絵が、物語の儚さ美しさを更に跳ね上げていて、物語の世界に惹き込まれました。
主な登場人物は2人。狂気的なほど信仰に囚われた家で、生まれながらの病気を理由に毎夜祈りと懺悔を強いられて育った少年アラン。暴力と酒・ドラッグに溺れた家庭から逃げ出し、居場所を求めて各地を放浪し続ける少年ヘイデン。家に捕らわれて逃げ場の無いアランは、偶然に出逢ったヘイデンに、街から連れ出されます。アランにとっての救いであり、何度読み返しても個人的に大好きなシーンです。
その後、捜索願を出されたアランが見つからないよう、2人は転々と各地の移動を続けますが、とある街の滞在中にある事件が起こります。2人は意図せず「人を轢く」という罪を犯してしまうのです。自首も考えますが、ここで捕まってしまえばアランは親の元で檻のような日々へと逆戻り。ただ「一緒にいたい」だけなのに、逃亡を続ける中で罪が重みを増し追い詰められていく様子が痛々しいです。
加えて単なる逃亡劇かと思いきや、それに並行して、精神的なすれ違いと葛藤が繊細に描かれており、それが物語の展開をより凄惨な方へと加速させていきます。確実に似た境遇を持ち、互いの感情を理解し合える2人なのに、信仰というたった1点の違いで、2人の「観る世界」は重なりません。神に縛られてきたにも関わらず、幼い頃から神しか縋るアテが無かったアランは、無意識に神からの赦しを求めてしまう。しかしヘイデンは、アランが神と決別しない限り彼自身が過去の呪縛から自由になれないと察しています。彼はそんなアランの心を解放してあげたいと思うも、アランにその想いは届かず...。このどうにもならない理解り合えなさも、読んでいてしんどくなるほど切なかったです。
ダークな世界観の作品ですが、不穏な雰囲気を途中で忘れてしまうような、互いを想い合っているシーンが印象的でした。互いに酷い家庭環境に苦しめられてきたからこそ、どこかに居場所を求める放浪への共感と、「相手のそんな居場所に自分がなれたら」と祈る2人の想いに、涙腺崩壊です..。