城や城の内部は勿論、交通機関やいわく付きの城の塔など、画力を見せつけて舞台が出来上がっている。
寒くて暗いところ、その感じが出ている。
伯爵の居城らしい重厚さや、歴代の肖像画の前で聞かされる悲劇のオカルトっぽさなど、ちょっとしたおどろおどろしさが、ストーリーを盛り上げる。
中身はよくある、ゲイのカモフラージュを頼まれたヒロインの受ける誤解と、そのヒロインを気に入ってしまう彼のロマンス。
描けない漫画家には担当出来ないものを軽々と(語弊ある表現だが、現にとても精力的に“仕事”をされているので)仕上げて、見せつけてくる力に圧倒された。
しかし、ストーリーはあれあれあれ、という感じ否めず。解決したとはいえなくて、父伯爵の節目、伏せられた弟の秘密の暴露、キットの出生など、全て後腐れなく片付かず、中途半端に区切りを迎えた、で終わる。(追記:後日続編発見。)
現実社会はそんなものかもしれないが、だからこそお話はもっとスッキリしたかったのもある。
しかし、暗い夜の城への電車移動と下車、夜間の城内での立ち歩きや二人の熱いキスなどは、この話が終始その環境、つまり夜繰り広げてることを示すことから、そのカラリと明るくならない終わり方も、ある意味一貫してる。
表紙がキット1人。男女のカップルで描かれていない物珍しさ(羽生先生もやるが)に、本作品の持つ孤独感も出ているように思う。凍てついた雪降る暗い城に、ヒロインがもたらす鮮やかな髪色と雰囲気が、彼の心を照らし暖かくする。凍えた心を溶かすように二人は互いの存在が相手を温め合う存在。寒い外とは恐らく対照的な、部屋の暖炉の勢い。まるでこれまで二人が其々過ごしてきた凍った世界が、この出会いではぜるであろうと予感させる。
そして表紙絵は夜間で、遠景に城。王国物なら城と言えば夢の象徴だが、これは違う。彼にとって、帰りたい所ではない。寧ろ避けていた所。
だが今回は、ヒロインと出会えた。縁が切れたことでもう城を背景に収まることは今後無いかもしれない。このまま帰りたくなかったヒロインと、再びそこで結ぶエンディングは、城を離れること、そして彼女と新しい出発を始めるということ、彼が自分の感情に向き合うことで、全てがそこから変わることを意図した場面のようで、いいところでthe endを置いたなと感心。原作者か橋本先生かどちらの手法なのだろうかと思う。邦題が変。