売れない俳優で、当然お金のない人と思っていたひとを好きになったヒロイン。
日々自分の事業の順調な運営に忙しかったヒロインが彼の魅力にふと気づく。気持ちはどんどん傾く。
彼も人が悪い。
実は歴とした収入を得られる職業があることを隠して、自分を棚に上げてる。
騙されたとの怒りはヒロインだって負けないはずなのに。
でも、軽妙で思わせ振りな会話に陶酔出来る。
「君は僕の/男としての本能を/物凄い力で/揺さぶるんだ」
もしも実際そう言われたらさぞ嬉しいだろうなぁとの想像をさせる絵だし、また、彼がそんな殺し文句を口に出来る男性なのだ、と強い説明力が伝わる。
頼み事を快諾させ前向きに協力してもらっている、
ヒロインに対して優しい男性が、それを言ってのける。激情のほとばしりに見えて動かされる。
初恋の人の揺れ動きが妙にリアル感が出ていたし、そのあとおとなしく、収まるところに収まる展開に、HQにしてはニッチなひとつの幸せを描いていて面白かった。
ヒロインの劣等意識、家族内仲間はずれ気分が、最後に解消されたのも爽やかな終わりかたで良かった。
戸惑った箇所がある。物語の新たな展開を予感させるコマで。
「あのお調子者が我が家に小さな旋風を巻き起こすーーー」(61頁)のコマが、が、突然出現して戸惑う。つなぐ何か言葉か絵を探しても見つからない。この点は引っ掛かった。
しかし、アリスン先生はいつもながら背景コマ、人物以外のコマの絵はインパクトがあって見とれる。
特にこの作品は本当に圧倒される。建物の外観、内部、街、乗り物・・・。その上、他の作品では子どもっぽい顔立ちのヒロインが、こちらではそこまで幼さが目につかない。
違うタイプの男性二人も、見事な描き分け。好きだった人の挙式前夜にして就寝前の、誘うやり取りに花がある。ただ、初恋の彼氏はもっと草食(でも男性は男性であってー)な見た目を、先入観で私は決めつけていた。確かに、そんな人であっても、そこはギラつきを垣間見せてくれるシーンの方が、むしろその現場の緊張がよく感じられて、良かったなと、提示された絵に得心。
結婚前に、かつて心が動いた人に行動しようとするケースは、身近な例で知っているので、それが男性の例でも見つけた感じで興味深かった。
二人が結ばれた最初の夜は、ヒロインにとって、より、二人にとって、を彼がもう少し考慮してくれたらとは思う。