アウトラインはどこにでもありそうな話で、田舎に暮らす高校生が、それぞれの夢を追って東京で一緒に暮らそうか・・から始まります。訳あってその後、綾野は地元に残り、紺は予定通り東京へ。紺は夢を追っているはずだったのに、現実は描いていたものとはかけ離れている惨めさで、田舎で変わらない暮らしを送る綾野に会うことで、精神的な救いを求めます。一方の綾野は、田舎で何も変わらない日々を送る自分に恥ずかしさや焦りを感じて、東京で活躍しているはずの紺に劣等感を抱いていく・・。経験したこともないシチュですが、「あるある!」「わかるわかる!」と思わせる細やかな心理描写はさすがです。私は「愛しのいばら姫」の方を先に読んでいたので、あれの前作だと美山が出てきて気づき、久しぶりにそちらも再読したら、後書きにこちらが本編で、「愛し〜」がサイドストーリーとのことでした。読んでいて、すれ違う切なさや、自分の気持ちを理解してもらえない、相手の気持ちが理解できないもどかしさをこれだけの熱量で文章に落とし込める作家さんはどれだけいるのだろう、と考えてしまいました。皆が必死に生きているだけなのに誰かを傷つけてしまうときってあるよな、必死ってそういうことかな・・とかいろいろなことを考えるお話でした。出版年数の古い本が次々と販売停止されていて、この本も今は購入できませんが、こんな良作はずっと販売していてほしいと思いました。