このレビューはネタバレを含みます▼
表紙絵が麗しいので、思わずつられて読んでしまいました。
主要登場人物の一人、青野短氏については、全編を通して、美しく優しく上品で優雅であるが、反面短気で、突然にべらんめえ口調で怒り出すものの、直ぐに気を取り直して治まる人という人物像を頭に思い描いて読み進みます。
また、もう一人の人物、桜木月彦については、容貌などの詳しいことは書かれていないものの、態度や口調などから、自分に自信が持てないけれども、真面目に勉学に励んでいる好青年という印象で、しかし、表紙絵が可愛いので、そのイメージを持って読みました。
全八章の作品は、落語の演目に沿って話が進んで行きますが、落語を知らなくても、折々に説明がされるので、迷わずに読めます。
そして、桜木月彦は、青野短や落語に出てくる怪異たちや出会った人たちとの関わりの中で、自分の生い立ちや父母のとの関係を新たに見出すことができます。また、高校時代の友人関係で心に負った傷を修復することもできたのでした。
しかし、『牡丹燈籠』のお露と信三郎は、それぞれが既に本懐を遂げてしまったのにも拘わらず、何時までもこの世に留まって、あまつさえ、死神のこどもの面倒を見たりするような設定になっているのが腑に落ちません。話を面白くするために、敢えて、そうしているのかもしれませんが、お露が桜木月彦の姉の梅香に、要らぬ口添えをしなければ、梅香は死ぬこともなかったでしょうし、桜木月彦の両親も違う生き方ができたはずです。この世に、留まらずに、あの世に行くべき魂を、話のネタにするのは心得違いだと思います。青野初と桜木月彦に好感を覚えていただけに、残念な思いで読了することになりました。