このレビューはネタバレを含みます▼
表紙絵では、伊崎律と水嶋聖吾の廻りを白薔薇や黄薔薇や紅茶薔薇が彩っています。二人を花で表現すると薔薇になるのでしょう。水嶋は右手で律の手を取り口づけしていますが、左手に深紅の薔薇を後ろ手に持っています。彼は直ぐにでも律に薔薇を手渡して想いを告げたいのに出来ないでいるのです。飽くまでも律の両親に受けた恩を返しているという立場を崩そうとしません。其の為、律の水嶋に対する思慕は行き場を無くし身の置き所が無くなってしまいます。律の表情や態度を読めば、律の水嶋に対する恋情は手に取る様に判るのに、何故か敏い筈の水嶋は気付かないのです。水嶋は律を雛鳥のように囲い込んで周囲の悪から守りたいのでしょう。律は見た目よりは余程たくましいのに、水嶋の眼には未だ庇って護ってあげなければならないか弱き少年に見えているのです。此れでは、律が水嶋の手から逃げ出したくなるのも無理はありません。律は感受性に富んでいるのでいるので、直ぐに涙を見せますが、水嶋限定の涙だということに水嶋は考えが及びません。見ているほうがじれったくなってきます。現代の話ではないので、此れ位ゆっくりと話が進んで往くのもいいのかもしれません。人物紹介の水嶋と律を思い描きながら読み進めました。此の小説は挿絵が無い方が自分の想像力を駆使して読めるのでいいと感じました。主人公二人の貌が分かればいいのです。他の人達の容貌を知ることは、却って心情を害して読書の妨げにすらなります。