ある瞬間から、高校時代の母にまつわる思い出を次々とフラッシュバックするようになってしまった少年の物語。どうやらそれは亡き父の主観的な記憶らしく、しかも母への淡い恋心なのだからたまったものではない。ふとしたきっかけで母への想いが心の中へなだれ込み、いつしか少年も母を見る目が変わってしまい……。
──とくればドロドロの倒錯的な愛憎劇にでも発展しそうだが、本作はそうした「いやらしさ」を微塵も感じないのが特長。親子は飽くまで親子だし、直接的な行為や変質的な欲望などもほぼ描かれない。
むしろ「親どうしの愛情」が、本来伝わるはずのない子世代へダイレクトに受け継がれるという、子供にとってはいわば愛の起源を垣間見るようなノスタルジィが根底にあって、やや叙情的なストーリーである。
近親恋愛「風味」に抵抗がなければ表紙買いして損はないと思うが……。いかんせん人を選ぶ内容なので、試し読みをオススメする。
近親への愛に戸惑う母に萌える!という人よりは、そうした想いをひた隠す少年に燃える!という人の方が楽しめるかもしれない。