苑生先生の作品の空気感はやっぱり独特!『被写界深度』でも書きましたが、不思議な雰囲気を一定のレベルで常に放ちながら物語を展開させている感じです。『兎の森』に関しては、そのミステリアスな感覚が割増されていて、どちらかというと、恐怖心にも似たスリリングな色調を物凄く感じました。所々、ぞくっと身震いさせらる箇所があります・・・。その不気味さを効果的に出しているのは、やっぱり登場人物の表情や色の出し方だったり背景エフェクトだったりするのかなあ、と。あと、内容に関して凄いなぁと関心したのは、「幼少期からの家庭環境による心的トラウマ」というとても大きく重大なテーマを軸にしながら、その問題を過度に主張せず現実味を保ちながら、環の思考形成や精神状態を表現している部分です。でもやっぱりその部分をより有効的に表現できている一番の誘因は、志井の楽観性というか、鈍感力というか、物事を良い意味で思慮深く考えない性格にあると思いました。一見、引き合わなそうな環と志井が実はお互い補い合って、いずれ成立するまでのプロセスを見ているのかなあ、と。この作品のジャンルが恋愛でなく恋愛要素が無ければ、単純にミステリー物とも捉えられそうです。
シンプルで素朴だけどただの単調ではない、苑生先生の独特で(勿論良い意味で)不確かな空気感を醸し出す作品が大好きです!続編が待ち遠しい!