他の人が気づかない自分を見てくれている人。嬉しい言葉を最高のタイミングでかけてくれた人。彼ニールは、ヒロインのロマーナに高級な仕立てのスーツを汚されても、最高級車を、水だらけにされる状況でも、そんなことを気にする事など全くないのだ。
でも、彼は忘れられない人を深く愛していて、目の前にいるヒロインに動かされている自分自身に気づこうとしない。最も幸せであるべきだった過去のなかに、彼の心が止まってしまい、悲しみから抜け出せていなかったのだ。もがこうともせず、距離を保とうとするニール。それでもロマーナの最大の理解者であることをストーリーは各所で見せつけてくる。彼女にとってこれ程の相手は他に居ないだろうというくらいに。
その場面一つ一つが、うっかり近付き過ぎては、いけないいけないと後ずさり、の繰り返しで、エピソードが積み重なっていき、二人の関係は彼の私生活にも足を踏み入れ始める。ロマーナの、ニックの心に対するノックは、彼女自身は失敗と自己中への自責の念を自覚したのだけれど、この体当たりは、成功し、そして、ニールが本心から逃げずに向き合う結果をもたらす。
気になって気になって来るかなと目が行ってしまう心境、シチュエーションは違っても誰でも心当たりのあるところ、そして、冷静でいられないところ、よりによって好きになっては厄介な相手にひかれるときの揺れ動く一貫性の取れない動き、解る。
タイトルはそれでも違うだろう。
買ったのはキスどころではなかった。
これはまずは狩野先生に責任はない。
最後に疑問点ひとつ。対立点の提示方法。
共同経営者の関係の両家、きっと設立の経緯や出資関係とか、または創業初期の発展への貢献の比率など、経営権の定期スイッチのルールは反故に出来るものではない大切なものと考える。
約束を破ったのは、居座りを続けているほう。だから、この作品を読む限り、いくらロマーナが頑張っている展開をしても姉妹の側には、分がない状況に思えてしまう。
彼の家を被害者として物語を語る構図を避けるためにも、ロマーナの一生懸命さは必要で、ふんぞっていたら、確かに悪人だ。だが、心を許してはならないとのロマーナの心情は判るとしても、余りに「敵」を強調されると、そもそも 事の発端からくる姉妹の状況に正当性を感じ取れない詠み手の自分が、彼女に同調しづらくなる。
ラストの価値にケチがつく気分になる。