スパダリ設定は割と好きなので、数えきれないほどのスパダリを拝んできましたが、この作品の遼二さんはTLには珍しいタイプのスパダリのように感じました。紳士度は200%ですが、優しすぎて大人しくて気が弱い感じ。そのせいかHの時の攻め方もジェントルで、言葉責めが全然責めてるように見えないという(笑)とはいえ、個人的にはそこはどうでもよくて、彼の一番の魅力は鋼どころじゃないくらい頑丈な理性だと思います。獣としての抗い難い本能を、人間としての理性で捻じ伏せるところが凄くカッコ良いと思いました。誰にも気付かれないところで、とんでもなく我慢して頑張る様子は、優しさを極めるとこうなるのかなと思わせます。
一方でその優しさが災いして、ずっと現状を打破できなかったのかなとも思いました。αの中でも飛び抜けた天才であるにも関わらず、むしろ天才であるが故の孤独から、自分を生きることを諦めて殻に閉じこもり、地味に目立たず流されるように、まるで死んだように生きていた遼二。彼にとって、生ける屍状態から抜け出すには、「運命の番」レベルの強制力がなければ不可能だったのかもしれないと思いました。
このお話は「運命の番」が重要な要素ですが、それを中心に据えてドラマチックな展開にしていないところが、私は好きでした。それは出会いのきっかけに過ぎなくて、出会ってからの2人が惹かれ合い、お互いへの理解を深めていく中で成長していく様は、割と地味で普通というか、だからこそオメガバースとか運命の番とかいうのをスパイス程度にとどめて、読者の心にリアルに寄り添って訴えかけるものがあるような気がします。それに、たとえ脇役でも心理描写が丁寧だったので、それぞれが良い仕事をしていて、物語に厚みを持たせていました。オメガバースものは特殊な世界観が全面に出て、ファンタジー読んでるみたいになりがちですが、この作品はそうではなく、とても自分の身に引き寄せて読むことができました。読み返しにも耐えうる良作TLだと思います。