立場などどこかに置いて二人は本当の意味で裸になって過ごした(始めからではない)。
タイトルは壁を築き上げているままの時の彼の言葉だが、このストーリーの核心は早くも一旦そこで突けている。
大人の男女だが、本当に人を愛するということがやっとわかるというストーリー。
岸本先生も女性のドレスアップがサマになる、子どもっぽくない絵柄が、読んでいてHQ気分に浸らせてくれる、腕利きの漫画家。
男性はマッチョではなく、逆にどこか線病質な位なのに、そこに隠されたナイーブな心が隠され、日々何かを闘って精一杯虚勢を張る姿に、痛々しくも男性の雄々しさを感じさせる絵が、見ていて、はまるキャラにはドはまりしていて良い。
口の達者な二人が相手に負けずやり返し合うやり取りに、互いの魅力が引き寄せ合ってしまう。駆け引きをしようとして、相手の深いところに入り込んでしまうほど親しくなってしまう。
理屈ではない、理性ではない、感情は肉体の別システムであって、相性というものは生きている以上、生身の存在にあると。二人は目の前の相手の魅力によって、日頃の信条を言葉でなく接触の深まりで体得した。二人で過ごした後、両極に立っていた二人が、反対の視点を無意識に我が物として取り込んでそれを受け入れている。
ただ、このヒロインとその姉妹、その親を、それも愛と、受け入れていいものか?
夫婦愛と、子どもへの愛情や責任は全く別種。夫婦がうまく行っても、ヒロインはそれはそれとして、親としてどうか、というところは許さないでいい、と私は思ったが?
親を許す流れは何の弁護でもない、と感じた。
考えようによってはエピキュリアン賛歌、罪悪視しても幸せには結び付かないこともあると、そこに身を投じることが果たして悪いことなのだろうか、という、「過ち」観に対する反語的解釈も出来るし、ロマンス王道のプレイボーイ陥落ストーリーでもある。手玉に取ろうとして踏み入れてしまった、冒頭ヒロインの、「世の女性達が我こそは彼を改心させるとの幻想を抱いて」あえなく失敗しているのだとの台詞、ヒロインは成功者という訳だ。
二人のボンボン交わす勢いのある台詞が小気味いい。特に、互いに譲らない主張を繰り広げる14-15頁が好きだ。