歴史物って、義経・頼朝と、信長を描いたものが多い。ほんっとに多い。伝説も含め資料が割と残っていて、非常にオイシイ素材であるのは認めます。ただ、天邪鬼の私は、他の時代も読みたい、と思っていました(小説や実用書を読めと言われたら一言もありません)。そんな時に出会ったのが河村恵利さんの作品。第4代執権北条経時と第5代時頼という、大河ドラマ(初代と8代の話はあった)とも微妙にずれた、まさに間隙をついた時代。地味で他の作家さんが選ばない素材を取り上げてきらりと光る作品に仕上げる手腕はさすが。宝治合戦という史実を織り込みながら、確かに感情が、特に男女の感情の交錯があったのだなと思わせる作品集です。4つの短編て視点は変わりますが、経時らの異母妹の秘めた恋心を描きつつ1つの時間軸を作っています。叶わぬ恋をした檜皮姫が本当に切ない。その気持ちに寄り添う讃岐もまた自分の気持ちを押し隠そうとする。夭折した人も遺された人も一体どんな想いを胸に抱いていたのだろう、と思いを馳せずにはいられない。恋情の悲哀が静かに胸に染み渡ってくる、そんな作品です。