母編と娘編の二部構成で、父が両編を連結させる。篠原先生のお得意伝奇もの。ホラー混じりで怖がらせながら愛を柱に、篠原男子の色気と男気が、女性好みの形で表現される。
でも、男性が主人公を守ってくれようとするその言動に酔わされながら、結局自分で何とかしようとする、守ってくれるのを待っているだけでなく主体的に主人公が動くのも篠原先生ワールド。愛する彼を守るために力を尽くす主人公のパワー。特異体質と判っても、主人公を愛し尽くす彼慎ちゃんの深い愛。そこには、何者であるかなど好きになったら関係無い、というピュアな感情がある。
超能力的並外れた能力が戦いで発揮されるときの画力の高さに驚嘆。動物は難しいのに、動きのある絵をポンポン幾つも示してきて、技量に唸ってしまう。篠原先生は生き物だけではない。大規模な爆発シーン等も、空間に広がるスケールを描き、その辺の少女漫画とは完全に一線を画す。
掲載誌の路線に沿うH要素としてなのか男性裸体が作品に頻出するが、先生は比類ないほど美しくセクシーに描かれるので、作品に登場する男性の魅力を一層高めるのに大きな効果を上げている。
一方、後半の主人公の相手である暁生がヒョウになるクライマックスの絵は、そのテクニックに溺れずに、衆人環視の元で変身する姿の衝撃を描く方にウエイトを置 いている。見世物ではなく、主人公が救出に果たして間に合うのか、という方にもちゃんと関心が向かうようになっている。
ここまで描ける作家を、私は今のところ他に知らない。
コミックは、ストーリーだけでないし、絵だけでもない。どう切り取り見せてくれるか。
その効果的な提示を楽しむのに、この作品は随所で、詠み手をどうさせたいのか、泣かせたいのか、驚かせたいのか、怖がらせたいのか、ときめかせたいのか、色々やってくれる。その力量がとてつもないと思うのだ。
絵柄の時代性を問う人がいるが、私は、発表時期の関係でその時代時代のスタイルで描かれるのは不可避と思っており、少しも気にならない。作家の個性としても受け入れている。その各時代各時代で、新しい表現を感じればそれでいい。