発熱バスルーム
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発熱バスルーム

ARUKU

牢獄にもベッドにもUFOにもなるバスタブ

ネタバレ
2020年11月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ 天涯孤独な身の上の見晴は、ある日、自宅近くのプランターに小さなカメラを見つけます。やっと再就職できたブラック企業で頑張って働いていた見晴は、その会社にもさっさと夜逃げされ、もらえるはずの給料も貯金も無く、気が付けば何故かバスタブにいるという状況から物語がスタートします。たくさんのカメラと盗聴器で、ずっと見晴をストーキングしバスタブに拘束してきたのは、見も知らぬマナト君で、見晴に狂気のような愛を注ぎ続け、強引に全てを要求してきます。マナト君は見晴を外の世界から守るのだと、バスタブとトイレと洗面台しかないスペースに拘束し続けます。なんとかそこから逃げ出した見晴ですが、そこで改めて、自分の孤独さと、形はどうあれ我が身を切るように丸ごとの自分を愛してくれるマナト君の存在を再認識します。やがて二人の持つ過去の繋がりが明らかになり、見晴は改めて自分の気持ちを知ることになります。
傍目には完全に狂気ではあるものの、マナト君の見晴へのがんじがらめでかつ純真な一途さと切なさ、仕事も家族も無く独りぼっちの見晴の寂しさとが絶妙な機微で繋がってゆきます。
物語中「新型インフルエンザ」という表現があり、人の姿が消えて、しんしんと雪の降る大都会や、マスク姿で行動する警察官など、今この時に物凄くリアルでした。コロナもまた、人の寂しさを否応無く浮き上がらせてしまうのだと改めて実感しました。
「牢獄」「ベッド」「UFO」たった一つのバスタブだけど、全て本人の心持ち次第で、自分の置かれた状況は変化するのだと、しみじみと思いました。
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