黒猫亭雑記帳
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黒猫亭雑記帳

ARUKU

短編ならではの切り口の素晴らしさ

ネタバレ
2020年11月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ 2005年〜2010年頃発表の短編集です。『黒猫亭雑記帳』『黒猫の言い分』は、時代を特定できませんが戦前のお話です。近所で生まれた仔猫を、自分では飼えないので飼ってくれそうな立派な家に捨てようとした貧しく真面目な青年と、大学助教授かつ官能小説家の先生とのお話。『台風13号』『土屋観測日記』『ウェザーニュース』は、イジメに近いことをされても嫌だとは言えない高校生の土屋と、クラスでのカースト上位の武藤とのお話。台風という非日常イベントからの思いがけない展開と、そこからの土屋の心と行動の変化、数年後の二人の出会いがギュギュッと描かれています。『琥珀の月』『ストーカーをストーキング』は、作者様らしい名作です。「好き」という気持ちに閉じ込められてしまったストーカーと、ストーキングされたことで自分を見直さざるを得なかった主人公とのお話です。それは狂気であり犯罪なのですが、その一方で、それが命懸けの一途な純愛ゆえという、切ない二面性が描かれています。初めてHした翌日の、ただただ初々しくも恥ずかしい一瞬を描いた『昨日の今日で』、お互いに忘れようとしても、どうしても忘れられない高校時代のプラトニックな恋を、地方と東京という距離や卒業してからの時間等、お互いを隔てる様々な障害を超えて向き合わされる『SNOWBLIND』、短編としての切り取り方が鮮やかな『凍える海の底にあるもの』、夜目のきかない大学の先輩と、たまたまそれをサポートすることになった後輩との『僕はあなたの夜になりたい』。どれも短編ですが、作者様ならではの鮮やかな切り口で読み応えがあります。お勧めです。
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