恋に落ちる花
」のレビュー

恋に落ちる花

ARUKU

雑草の二人静はかなしけれ

ネタバレ
2020年12月4日
このレビューはネタバレを含みます▼ 一つ咲くより 花咲かぬより……
一人でいるよりも、恋をしないよりも、二人でいる方がずっと哀しい……物語の終盤で象徴的に語られる与謝野晶子の短歌です。例え傷ついたとしても、お互いを、より大切に思えるのなら、それでいい。他者からの評価を必要とはしない……
お互いに不幸な結婚をしてしまった既婚者同士のハナちゃんと真壁さんとが、運命の恋に落下してゆくお話です。主人公のハナちゃんは、家事を一切しないプライドばかり高い専業主婦の妻に文句も言わず、一生懸命、真面目に働くサラリーマン。ある日、取引先の真壁さんから「結婚生活がうまくいっていないのなら、俺と恋に落ちようよ」と言われます。かねてから好意をもっていた真壁さんからの誘いの言葉に、ハナちゃんは改めて、苦しい結婚生活や、自分の本音と向き合います。そして、本当は自分は誰かを大事に思ったり、ときめいたり、毎日の仕事にやる気が出るような恋がしたかったのだと気付きます。どんどん真壁さんに惹かれてゆくハナちゃんですが、真壁さんもまた、一目惚れのハナちゃんを諦める為に結婚したものの、絶対に授かることのない子供を作ることに執着している上司の娘である奥さんとの関係に苦しんでいます。みんなが恋の終着点として目指すはずの結婚をしたはずなのに、不幸になってしまった二人。何より、奥様方お二人が、それぞれの「結婚」という概念(ある意味、結婚すること自体がステタスなのかもしれませんが、「結婚したからには自分はこうあらねば」みたいなプライド)が、リアルにありがちで怖いです。不倫状態から始まる恋だけに、読者もハナちゃんもとっても苦しむのですが、制度に守られてはいるものの、その制度ゆえに本人達はとても不幸な「結婚」と、社会通念上認められない形ではあっても、相手の為ならば不幸になっても構わないと思い切れる「恋」との対比が見事な作品です。何より、ピュアッピュアなハナちゃんが本当に愛らしくて癒されます。タンポポみたいに純朴で、でも食虫植物みたいに魅力的なハナちゃんを、ぜひ堪能して下さい。
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