ワンルームエンジェル
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ワンルームエンジェル

はらだ

これはミステリーですね

ネタバレ
2021年4月1日
このレビューはネタバレを含みます▼ まず紙本と電子どちらも良さがありますが、電子特典の書き下ろしネームは、私にとって読む価値がありました。 (特典はシーモアも同じかな?)

一方、紙本はカバー下の絵もカラーなのですが、表紙カバーの天使がいないバージョンで「天使がいないだけでこんなに侘しい部屋なのか」と思わせる演出がニクい!全く同じはずなのに、幸紀の表情が心なしか違って見えます。

どちらか一冊というならば、圧倒的に電子書籍をオススメします。

冒頭で“粗野な30男と天使のファンタジー”とおもわせおいて、実は天使の正体を巡るミステリーです。
ミスリードが巧みなので、真実が明らかになった時には途中にも関わらず出だしから読み直してしまいました。最終頁に至る前に読み返したくなるのは、上手く騙された証拠ですね。
そして真実を知ってから読み返せば“騙し絵”を見た時のような興奮を味わえます。

明かされる真実の重み。社会や学校の理不尽さ。関わる人々の手前勝手な憶測と無責任な糾弾。
そして少年期だからこそ選択してしまった無惨な結末。
「何も知らないくせに!」「お前がそれを言うのか?」「なんて無責任な発言なんだろう」そう思う自分は天使側の真実を読んでいるからで、もし真実を知らなければ自分は糾弾する側に立っているかもしれない…その可能性が自身に響いて恐ろしかった。ここが読者によっては「読み進めるのが苦痛」と感じてしまう所以かもしれませんね。

一見“生きる価値を見出だせない幸紀”が救われる話のようでいて、実は幸紀と天使が社会の中に小さな幸せを見つける物語でした。
重いテーマを、時にコミカル時に辛辣に描き、最後には温かい情景で締めてくれた“はらだ節”をぜひ堪能して欲しいです。
多分、読者の年代で印象や読後感も変わるんじゃないかな。名著のように傍に置いて、時々読み返してみるのも面白いのではないでしょうか。
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