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一ノ瀬ゆま

幸せの獲得までの指針

ネタバレ
2021年4月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 絵が上手い、だけではなく、読者に対する果敢なサービスにも高評価を捧げたい作品だ。
まずは各巻のサブタイトルが凄い。「白い獣(ケダモノ)の、聞こえぬ声の、見えない温度の、」「赤い桎梏(しっこく)の、約束の場所の、臨んだ十字架の、」「薄紅めく空の、潤びる(ほとびる)螺旋の、光る岸辺の、」本編読後に再びこの三行の言葉たちを読むと自らの想像力の乏しさを突きつけられる破壊力がある。また句点ではなく読点なので読後に本編には描かれてはいないアレやコレに想像を膨らませ広げ、再度感動できてしまう。
メインキャストの名もエモい。宥=なだめる・ゆるす。勁=まっすぐで力強い 梏=縛る・乱す・手枷 崔=高い・崖・交わる いちいち納得して感動。
また、絵だけで状況が直に届くよう丁寧に描かれている。例えば勁が箸の持ち方すら教えてもらえなかった境遇、例えば舐める行為で表す幼児性、例えば相対したコマ外の人物の表情や感情すら見えてくる視線の描き方。そして素晴らしいのが幼児期の自分同士で描いたパーソナリティー障害の視覚化。
さて、勁が埋めてしまったのは「懇願で 涙で 痛みで 信用で 期待で 希望で」ある。それが最終巻のクライマックスにつながる。感情の発露、欲望の獲得、共感、明確な意思の芽生え、喜びの実感、他者への正の影響力を伴った社会的交わり、夢を持ち叶える強い意志の具現化。それらを少ないコマわりで強制的でなく清涼感を伴って読者の胸に届けてくれる。それが人としての幸せの一般的な定義だという安心感と多幸感。「しあわせ」という言葉にどれほど縁遠かったのかと思わせる「しやわせ」のセリフ。それがラストの、本編内での、唯一の、勁の満開の笑顔でみごとに収束する。感動もひとしおである。
ラストの、映画のタイトルバック的なエンディングも一見の価値あり。
余談ではあるが、崔の資本主義社会の格差批判が解りやすくてつぼった。あと、どんなに怪しい成り立ちでもそれで助かる人がいるなら宗教に成り得るんだなあとか。最後に、写真加工アプリのおかげで手間と時間を節約し、どんどん良作が世に出てきてくれる良い時代になったものだと感嘆した。12
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