このレビューはネタバレを含みます▼
画家・出泉と出版社編集の南、役者・葛葉の三人が遭遇した怪異譚。第一話「其は怜々の雪に舞い」大正末期、天才作家と謳われた烏鷺(うろ)が雪の高尾山で消息を絶ったその同じ頃、同業である乙貝(おとがい)の家の戸を叩く烏鷺の姿があった。それから2年、烏鷺の新作が乙貝の家から見つかる。二人の間に何があったのか?烏鷺の消息は、そして乙貝の身に起きる怪異とは…?
『其は怜々の…』で始まる詩を詠むに至るまでに、どれほどの深く熱い思い、喜びと高揚、焦慮や苦悩などがあったことだろう…とページをめくる手を止めて考えてしまう。読み手に一定の想像力と共感力を求める抑えめの描写ではあるが、出来事のすべてをつなぎ、長い年月にわたる心情の色々に思いを巡らすとき、この詩のやるせない切なさが胸に迫る。