ミュジコフィリア
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ミュジコフィリア

さそうあきら

隠れた名作なるも未完

ネタバレ
2021年6月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ さそうあきら先生が得意とする、音楽に身を捧げる若者の、切なくも可憐な世界観が広がります。

あまり知られていない、音科生(主人公は美術科)の日常の描写も、興味深く、地元では神童扱いされても、音楽科に来れば只の人になり、美術科よりも遥かに身を立てることが難しい、少しでも緩むと置き去りにされる、そんな現実が展開されます。

主人公は、ありがちではある、名作曲家の婚外子で、同世代の嫡子との愛憎に苦しみながら、才能を開花させていく設定です。

中盤、登場人物も増え、盛り上がりますが、主人公の恋人となるキャラが、大出世してしまい、いつのまにか、主人公が傍観者のような立ち位置になります。

最初は脇役だった人物が、どんどん出世して、主人公と逆転してしまう展開は、まるで、森の中にピアノがある、あの作品のよう。

それでも、なんとか自分を取り戻した主人公が、人生を切り開いていこうとしたところで、完結した、そのように感じました。

大出世した恋人と、同格になるまで自分も成長する、そんな王道の展開も見たかった、未完の佳作と言えましょう。
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