天使のうた
」のレビュー

天使のうた

西田東

素晴らしかったです

ネタバレ
2021年6月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ 出版社フェアにて、作者さんの未読だった作品を何冊か購入しました。読むのが楽しみすぎます。まず、フォローさんもレビューされていたこちらを読んだのですが、読み返す度に新しく見えるものがあって、何度も読み返して、隅々まで味わいたいような、そんな作品です。あるいは、つかみ切れていないものを何とか知りたい欲求というか。
「太陽と月に背いて」は私も好きでした。ランボーの詩集も手を出したのですが、いつも最後までは読み切れないのです。到底、彼の世界には行きつけないということを何度も突き付けられました。クリスに対する心象もそれに似ていると言えるな…とフォローさんの引喩に唸りました。
この作品は、詩ではなく音楽がキーとなります。アレックスがミシェルに弾いてあげたバイオリン、クリスがミシェルに向けて弾いた曲、多分、初めて心が触れ合った場面。似た者親子だなと思います。音楽でなら気持ちを伝えられる。音楽でしか自分を表せない。(アレックスに対しては語弊があるかと思いますが)
何よりも音楽を愛する男が「音楽なんかあてにすんなよ」と言う痛み。その痛みごと受け入れてくれる人がいても、それでは済まされない闇と病み。
何だか、西田東という人が考えて描いた人物ではなく、作中の人物がそれぞれに自我を持って生きているかのような印象を受けます。それほどに迫って来るものがあります。
ギリギリまで読者にも痛みを与えながら、最後は優しい希望を持たせてくれる西田先生は、やっぱりすごいなと思います。読んで良かったと思う素晴らしい作品でした。
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