潜熱
」のレビュー

潜熱

野田彩子

私ができなかった生き方

ネタバレ
2021年7月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読みたいけれど、迷ってました。何らかの形で揺さぶられるのは分かっていたので試し読みを何度何度もしました。読んでみて、やっぱり揺さぶられました。瑠璃の年頃に戻れるなら…いや生まれ変わってまた瑠璃の年頃を生きたなら、彼女の様に全てに正直に恋をしたいと思いました。「逆瀬川さんがヤクザだから好きなわけでも、やめたらもっと好きになるわけでもない。今日、あなたと、一緒に朝ごはんが食べられてうれしい。」瑠璃のこの言葉で、この子は全部ちゃんと分かってて好きなんだなと思いました。ずっと側にいて欲しいとか、私だけ見てほしいとかではなく、そういう事が望めないとしても、あなたがあなただから好きで、あなたの「今」の側にいるだけで幸せなんだな…。周囲の人々の気持ちを考えると瑠璃の行動は複雑な心境になりますが、それでもそんな恋が出来たなら、そんな人と肌を重ねる事があるならば、たった一時でもこんなに美しい瞬間は無いのではないかと思いました。逆瀬川さんも最後の最後に大切に瑠璃を抱いた。色々背負って生きてきて、これからも変えられないし、何の約束も出来ない。でも「また」があったらいい…本当にそう思うと言った逆瀬川さんは、肩書や過去と切り離したただの一人の男で、瑠璃へのまっすぐな想いを感じました。読後、タイトルがジリジリと胸を焦がします。
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