いつわりの薔薇に抱かれ
」のレビュー

いつわりの薔薇に抱かれ

英田サキ

作品紹介は読まずに、どうぞ…

ネタバレ
2021年7月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 八重澤高峰(たかね)とアレックス・ウォン。超高級ホテルのスィートルーム専属バトラーと中国人の富裕な美形実業家として出会った2人。気づいた時には、もう恋をしていた…。
読み始めて間もなく「ん?この人、本当にバトラー?」と違和感を感じます。何か言われるたびにいちいち驚いたり慌てたり、あまつさえ「は……?」なんて言い返したり …。そこに阿部佳さん*や新井直之さん**がいらしたら「あらあら」「おやおや」とたしなめられそうな素人くささ。
いったい、それはなぜなのか?その理由となっている事情(それぞれが負う背景) が、2人の物語をドラマチックに、かつ、やるせなくする所以となっています(ですから、作品紹介文でいきなり暴露されていることに驚愕。読まない方がいいです。これでは118ページしかないお話の少なくとも最初の16ページ、ことによっては丸ごと全部、読む楽しさを奪うようなもの。これを書くなら作品紹介文にも「ネタバレを含みます」表示をつけて欲しい…)。
こんな事情を抱えて人に恋をするとどんな気持ちがするものかとじっくり想像することで、その先の物語をより味わえることは間違いありません。
恋する人をただ見つめるだけでフワフワと浮き立つ心地がしたり、同じ空間にいるだけなのに幸せで胸がジンと熱くなったり、恋しい相手の元恋人の存在に心乱れたり、なのに相手の「好き」に「好き」と返せなくて苦悩したり……するだろうなぁと想像したり共感したりする楽しさを、英田先生の巧みな筆運びで存分に味わえます。先生お得意の「品があるのに、いやらしい」あのシーンもラストも堪能しました!
続きはいらない派です。ゲップが出るほど(失礼)満腹になるより腹八分目が好きなので。あぁ、妄想って楽しいなぁ。

*阿部佳さん:『わたしはコンシェルジュ』(講談社文庫)
**新井直之さん:『執事のダンドリ手帳』(クロスメディア・パブリッシング)
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